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マリオおじいちゃん、来たる!

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 「コンニーチーワー!」
 北イタリアはピエモンテ州の片田舎で、突然、おじいさんに声をかけられる。私が料理修行に長年通っているリストランテのすぐ近く。地元の人に教わらないと行けないような小さなカンティーナで、ワインを試飲させてもらってるときだった。
 お客さんのようでもあり、ここのカンティーナの親戚のようでもある。
 「コンバンワー、オハヨゴザイマスー、アリガトー」
 ありったけの知ってる日本語を並べて、うちの息子のMをびっくりさせている。
 こちらがイタリア語がしゃべれるとわかりきや、急にいろいろと話し始めるおじいちゃん。
 自分はイタリア人だけど、奥さんはスイス人で、スイスに住んでること。
 サンモリッツのホテルのマネージャーをしていること。
 その仕事の関係で日本にも1~2年に一度は出張に来ていて、ホテルオークラに泊まること。
 故郷のピエモンテにも家を持っていてちょくちょく帰ってくること。
 息子がこのカンティーナでアルバイトをしていたことがあり、ピエモンテの家に帰ってくるたびに、ここでワインをしこたま仕入れてスイスに持って帰ること…。
 そうか。表に、大型犬を乗せたスイスナンバーのワゴン車が止まっていたけれど、このおじいちゃんのだったのか。
 改めてよく見ると、カシミアっぽいセーターといい、きちんと整えた髪といい、身なりも立派で、どことなく気品がある。
 「なんてかわいい子どもなんだ!Mだって!?なんて素敵な名前なんだ!」 
 と、まるで孫をあやすようにうちの息子を抱きあげている。
 またイタリアで、もしくは日本で会おう。そういって、私のノートに名前と住所を書き、私も名刺を渡す。
 これが、私たちとマリオおじいちゃんとの出会い。2005年の秋のことだった。

 さて、旅先で出会う、こうしたフレンドリーなイタリア人と住所交換なんて場面は、毎回のようにあるのだけれど、でも果たして、本当に手紙やメールが来るかというと、ほとんど来ない。
 でも、マリオおじいちゃんは、すぐにメールをくれた。クリスマスカードやスイスの絵葉書も、折にふれて送ってくれた。
 それだけじゃない。翌年の11月には、本当に出張で日本にやってきて、本当に電話をくれて、本当にうちに来てくれることになった。
 初頭の肌寒い風が吹く晩、こちらがホテルまで迎えに行くつもりでいた矢先、うちに電話がかかってきたかと思えばマリオを乗せたタクシーの運転手さんから。お宅のお客さんのせて、もう家の前に着いた、という。
 うちの息子への土産にと、カランダッシュ社製の色鉛筆全40色と、私たちにはお菓子を抱えてやってきたマリオは、上質なテーラードのジャケット姿にブリーフケース。ピエモンテのカンティーナであった顔と比べると、連日のハードスケジュールのせいか、ちょっとだけ疲れた顔をしている。
 ようやくできた貴重な自由時間を費やして、こうして私たちの家に駆けつけてくれたことを、改めて感じる。
 私が用意したささやかな日本食と日本酒をたしなみながら、マリオはうちの息子をずっと膝の上に乗せ、40色の色鉛筆でいっしょに絵を書いている。
 特にすごい話で盛り上がったわけでもない。お酒を飲みまくって騒いだわけでもない。ただただ、私たち家族とマリオだけの静かな部屋で、静かに時がながれていった数時間。
 それでも、あたたかい空気が流れ、どこか心安らぐ。会うのはまだ二回目なのに、なんだかずっと前から知っていたような気がするのは、どうしてなんだろう。うちの死んだおばあちゃんに、ふとした表情が似ているからかな。イタリア人のような開放感も、スイス人のような閉塞感もないマリオおじいちゃん。ただただ自然体で、やさしい笑顔に、私まで子どものように甘えてしまったひと時だった。

 その翌年にあたる昨年春、私がいつものようにピエモンテに料理修行に行ったとき、居候先につくと私宛の手紙とチョコレートが届いているという。なんと、マリオおじいちゃんからだった。
 ちょうどピエモンテに里帰りしていたから、私に会えると思っていたけど、急に仕事でスイスに帰ることになってしまって残念だ、と。
 4歳の息子と大荷物を抱えて、延べ18時間近くかけて辿り着いたへとへとな身体に、じわーんとしみわたるようなやさしさに、涙が出たのを覚えている。

 それから1年。
 今度は、再び、マリオおじいちゃんの方が東京にやってきた。
 ずいぶん前に「3月に仕事で東京に行くから」とメールをもらってはいたが、果たして何日に来るのか何の連絡もなかった。そして私も、しばらく忘れていた。
 でも、今回も、やっぱり突然、電話がかかったきたのだ。
 今回は帝国ホテルにいて、明日から大阪で打ち合わせ。で、あさってまた戻ってくるけど、翌日にはスイスに帰らないといけないという。なんでも、毎日4~5件の打ち合わせをこなしていて、まったく時間がとれなかったらしい。
 「でも、Mに、うちのホテルメイドのお菓子を持ってきたから、ぜひ渡したい」
 またもや、なんという心遣い。
 ゆっくり時間をとって食事でもと思ったのに、帰国前日の土曜日の午前中しか時間がないのだという。
 「リツコも忙しいだろうから、無理しないで。ホテルの受付に置いておくのでもいいから…」
 とんでもない!ほんの5分でも10分でもいいから、会いたいよ!

 ということで、先週の土曜の朝、家族3人で帝国ホテルへ。約束の時間より5分早めに到着。長い廊下を進んで、ロビーが見えてきた瞬間、遠くからこちらに向かって手を振っている人がいる。マリオだ。
 70を過ぎた身には、長旅だけでもこたえるだろうに、こうしていつも精力的に動き回っている働き者のマリオだけど、相変わらず気品にあふれている。
 私たちの逢瀬に与えら得た時間は1時間。
 マリオの次の打ち合わせ先であるホテルオークラに送りがてら一緒に同行し、ホテルの中でお茶をする。
 ほんの数十分という時間だったけど、マリオといると、どうしていつもこう、ゆったりと、安らかに時が流れるような気がするんだろう。
 マリオは、うちの子の写真を、今回もデジカメでパシャパシャ撮りまくったあと、仕事へと向かっていった。


 うんと遠くの行ったこともない国から、いつも突然ひょっこりと、プレゼントを持ってやってくるマリオおじいちゃん。まるでサンタのおじいちゃんみたい。
 カンティーナでの偶然出会った、ただの日本人に、大きな誠意と、細やかな気遣いで接してくれるマリオ。お互いのことを、いまだにすごーくよく知っているわけではないのに、日本人よりも義理がたく、イタリア人よりも情のあつい人間。なんだか、どこか遠い星の国から私たち家族の前に突然降りてきた、優しい宇宙人のようにも思えてきた。

 週末、マリオがはるばるスイスから持ってきてくれたお菓子をさっそく切り分ける。
 クッキー生地に包まれた中身は、ぎっしりと胡桃とキャラメル。しかし、ひとくち食べてみると、その軽さと繊細さに感動する。
 決して脂っこくも、甘ったるくもなく、すべての素材が主張しすぎず…
 なんて表現はどうでもいいだろう。
 とにもかくにも、どこまでも優しく、素朴で、でも上品な味わい。マリオの人柄が乗り移ったようなお菓子を頬張りながら、また次回、突然マリオおじいちゃんがやってくる日に、想いを馳せる。


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コメント

JOYママ

本当に心温まるお話ですね
私も何人か懐かしいイタリアにいらしゃいましたが
もう・・・20年近く行っていない今、殆どの方が彼岸へ行かれてしまいました
日本で1回だけ行きましたチーズの講習会で知り合った・・・とは言えませんが
リッカルド・コラーティとおしゃるチーズの評論家の方は
頂いた名刺にクリマスカードをだしますと、親切なお返事を頂きました
その方も猫がお好きで・・・1回だけ講習会でお会いした方でした
本当に品の良い紳士でした
ブログを読みながら思い出して・・・・
御菓子もとっても美味しそうですね(^0^)

-

JOYママさま
素敵な方なのでしょうね、リッカルド・コラーティさんも。
中元だの歳暮だの、いろいろ習慣がある日本ですが
本当に心のこもった手紙やカードを送りあう習慣は
意外とないものです。
ちょっとしたことなんですけどね…。


eri

素敵な出会い
マリオおじさま、素敵!
この出会いはM君が運んでくれて、はぐくまれたのですね。
40色色鉛筆いいなー

イタリア人の情に触れると、イタリア好きに磨きがかかりますよね。
これからも、素敵な出会いがありますように!

私もこの夏イタリアに行けるよよいのですが、どうなることやら...

-

eriさま
おっしゃるとおり!あの、なんの見返りも期待することなく、
ひたすらかけてくれる情…、頭が下がります。
大したご恩返しもできないことがもどかしいばかりです。

イタリア、行けるといいですね~。
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ritz

広告代理店コピーライター
イタリア家庭料理研究家
HP→http://www.ristorante-ritz.com
著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
イタリア料理、子育てから、オペラ、日本の旅、秘湯まで。

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