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イタ馬鹿日誌

昼は会社員、夜は母、週末は自宅で料理教室。ristorante-ritz.comのイタリア馬鹿な日々。

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ブルーノ・ムナーリから学んだ、今年の抱負。

08_1_10BrunoMunari
 
 板橋区立美術館で開催中の、ブルーノ・ムナーリ展に家族で行ってきた。
 ブルーノ・ムナーリ。生きていれば、ちょうど100歳になる彼は、90歳でこの世を去るまで、絵本や知育玩具を中心としたグラフィックデザインの様々な分野で活躍したイタリアの美術家。思想家であり研究者でもあると言った方が正しいかもしれない。

 代表作の絵本「nella notte buia」くらいしか知らなかった不勉強の私だったが、彼の生涯にわたる創造性に満ちあふれた作品の数々を見ていたら、日ごろの鈍りきった自分の五感に、ガツンとカツを入れられたような、と同時に、ふわっとフレッシュな風を入れてもらったような、そんな気がしてくる。
 人間の心の核にビシバシと訴えてくるムナーリ作品のメッセージ力は、息子の反応を見れば明らか。特に、自身の息子が5歳の時に息子のためにつくったという仕掛け絵本シリーズに対する、5歳になったばかりのわが愚息の食いつきといったら、イタリア語もわからないくせに、まるで別人のようだ。

 ふと、彼のすべての作品には、本、ポスター、玩具を問わず、一貫して彼ならではのユーモアが貫かれていることに気づく。既成の枠に捉われない仕掛けを駆使した視覚的な面白さもちろん、絵本であれば必ずといっていいほど、ストーリーの最後に「オチ」がついていて、それは、子供に限らず、読み聞かせてやっている大人でさえも最後にクスッと笑ってしまうような、気が利いたオチだったりするところがすごい。
 たとえば、3羽の小鳥が出てきて、それぞれの身の上話を始める「Tre uccellini(3羽の小鳥)」という絵本。涙を誘う可愛そうな話を続けておきながら、いちばん最後の小鳥のページをめくると、思わず、ずっこけそうになるユーモアで逆に救われる。

 本展の最後のブースで上映されていた、彼が子供たち向けに開いた工作のワークショップのビデオも、例外ではなかった。
 イタリアのテレビ局が作成したビデオだろうか、子供たちを従えながら画面に向かってレクチャーするムナーリは、話術でも引けをとらない。
 こんな風に紙を自由にちぎって紙に貼り付ければこんな形に見えるよ、とか、そこらへんに転がってる紐をこんな風にくしゃくしゃっとまるめて葉っぱの下に糊づけすると、さあ何に見える?なんて感じで、子供の目を釘付けにしながら進めていくのだが、さて、ワークショップが終了し、画面に向かうムナーリ、さぞ、親がメモを取りなくなるような有難いお言葉で締めてくれるのだと思いきや、
 「さあ、ここでいちばん大切なことは…、糊の蓋を最後にしっかりとしめることです。では、さようなら」
 ってな具合でビデオは終了するのだ。
 当時80は超えていたであろうおじいちゃんにおちょくられるのは、心底気持ちがいいものだ。

 親子で楽しめる美術展といってしまえばそれまでだけど、人間という生き物であれば誰もが持っている感受性を、根っこからくすぐってくれるものというのは、そもそも、世代も性別も問わないものであってしかるべきに違いない。そう思うと、時代のほんの一時の若者をターゲットにした最近の日本のバラエティ番組なんて、退化した文化の象徴にすら感じてくる。
 作品注釈を読むだけでは読み取れない、こうしたユーモアこそ彼の本質、と思うのだが、残念なのは、ビデオや展示本のほとんどに日本語訳がついてなかったこと。まあかくいう私も、すべてを理解できたわけではないのだろうけれど。

 いろんな意味で考えさせられることの多かったムナーリ展、せっかくなので、売店で彼の絵本を買って帰ることにした。
 た、たかいっ!例の仕掛け絵本のシリーズなんて、こう言っちゃなんだが、たった数枚の厚紙だというのに、4,000円以上もするではないか。
 しかし、買ってしまった。息子にせがまれた「nella notte buia」の日本語版絵本とともに、この仕掛け絵本シリーズのうちの一冊を、買ってしまった。“自分”のために。

 そのタイトルは「Mai contenti」
 直訳すれば、「決して満足(contenti)できない」とでも言えばいいだろうか。
 ざっと筋を明かすと、象は、軽々と空を飛べる鳥になることを夢見て、鳥は海の中を泳ぐ魚になることを夢見て…という具合に次々に進み、でも、最後に出てくる牛は、なんと象になることを夢見ていた。象から始まってまた象に戻ってくる、つまり、堂々めぐりしているというもの。
 すでに絶版になったという日本語版のタイトルは「ぞうのねがい」だそうだが、いまひとつ、この物語のテーマをついていない。「ないものねだり」とかの方がいいのではなかろうか。
 勝手に大人用のタイトルをつけるとするならば「煩悩の堂々めぐり」といったところか。
 そんなわけで、私はこれを、自分への戒めのつもりで買った。
 次から次へとイタリアに行きたくなり、散在してもしてもオペラを見たくなり、手をつけたそばから次のものを手に入れたくなり…、でもそれでいて、何ひとつ達成していない。何一つ身についていない。そんな自分の飽くなき煩悩への戒めだ。

 でも、改めて読んでみると、勝手なもので、戒めどころか励ましのようにも思えてきた。
 いいんいじゃないの? 満足なんて、死ぬまでしなくても、いいんじゃないの?
 そんなムナーリの声がどこからか聞こえてくる。
 人間、満足したらそれでおしまいなんじゃないだろうか。欲深いと言われようが、浮気症と言われようが、人として俗世間に生きてる限り、煩悩を繰り返してこそ、生きる証なんじゃないだろうか。
 何一つ達成されつことがなくても、満足(contenti)しちゃうより、決して満足しない(mai conenti)でいた方が、ほんの少しずつであってもゴールに近づいているに違いない。うん、きっとそうだ。

 ということで、戒め、あらため、今年の抱負は「mai contenti」=「決して満足しないこと」、またの名を「煩悩の堂々めぐり」。
 ん?それって、去年の自分と何一つ変わらないってこと?

 そんな私ですが、皆様、今年もどうぞよろしくお願いします。
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ritz

Author:ritz
イタリア家庭料理研究家
本業は広告代理店コピーライター
1999年以来、毎年有給休暇を使い果たす作戦でイタリアへ料理修行。年に1〜2回のペースで子連れでイタリアの農家やマンマの家々を転々としています。
HP→http://www.ristorante-ritz.com
Facebook"マンマの台所Ristorante Ritz"→https://www.facebook.com/ristoranteritz/

著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
U.M.A.O.オリーブオイル鑑定士
イタリア料理、子育てから、日本の旅、秘湯まで。

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