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イタ馬鹿日誌

昼は会社員、夜は母、週末は自宅で料理教室。ristorante-ritz.comのイタリア馬鹿な日々。

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山を愛する人の宿「中房温泉」

07.10.15nakabusa-onsen(1)

 ただでさえ遅まきながらの夏のイタリア報告。ようやく終了してみれば、世間はもう、秋真っ盛り。
 ちょっと古い話題になるけれど、我が家でも、栗拾いと並ぶ毎年秋のお約束ごとを、先々週末に果たしてきた。
 それは、栗の産地で有名な長野県の小布施に、毎年、いちばんいい状態の栗が収穫できるほんの数週間しか作らない、しかも地方発送もしてくれない栗菓子を入手しに行くこと。

 「期間限定」「地方発送不可」の強気な謳い文句にすっかり乗せられ、結婚前からすでに10年以上は通っているが、小布施の前に温泉を一泊くっつけることも欠かせない。
 県内のめぼしい温泉は大体制覇したのではないかと思うけど、家族3人、秘湯を守る会会員としては、初めての宿を開拓することも楽しみの一つ。
 いい温泉宿に関する持論についてはすでに触れたが(って、えらそうに何者だよ私は、という感じだが→http://ristoranteritz.blog92.fc2.com/blog-date-20070212.html)、今回も、またいつか泊まりに来たいと思う、いい宿だった。

 中房温泉。それが温泉の名前でもあり宿の名前でもある。つまり、源泉かけ流しの一軒宿。
 安曇野から県道を反れてひたすら日本アルプスに向かって山道を進み、燕岳の登山口まで上り詰めた突き当たりに、ひっそりと宿はある。
 温泉の歴史は、なんと文政4年にさかのぼるというが、道もろくに開けてなかったであろうそんな時代に、よくぞこんな山奥の温泉を発見したものだ。
 前日の東京は猛暑がぶり返し、9月末にしては異例の32度だったというのに、今度はいきなり長袖にカーディガンを着込んでもまだ寒い。さすが、11月末からは閉山してしまうだけの場所だ。とにかく寒い。
 別館と本館があり、トイレ付の部屋がある別館に泊まったが、新しいほうの建物とはいえ、築4~50年は経っていそう。でも風情があるというわけでもない。
 山の傾斜を利用しながら、階段と廊下でいくつもの建物をつないだような、といえば聞こえはいいが、要は建て増しに建て増しを重ねた造り。途中で床がコンクリートから板張りに変わったり、壁紙がちぐはぐだったりと、温泉宿というより登山客のための山小屋といった方が正しいかも。それでも、すみずみまできれいに掃除が行き届いていて、これっぽっちも不快感を感じるどころか、どこか懐かしささえ覚え、それが次第に居心地のよさにわかっていくのがわかる。廊下の片隅に放置されている数十年前の「ぶらさがり健康機」もご愛嬌だ。
 古くからの番頭さん風情の、感じのいいスタッフが何人もいて、すれ違うたびに何度挨拶を交わしたことだろう。というのも、とにかくお風呂がいっぱいあって、何度も出たり入ったり、廊下を行ったり来たりすることになるのだ。
 宿帳を書いてる際に、宿のご主人が「一泊だけでは、全部のお風呂はとても無理です」と言っていたのは本当だった。

 着いて早々、まずは裏庭一帯に広がる露天風呂を転々としてみる。
 貸切露天のうちのひとつにまず入る。畳二畳ほどの木の湯舟の背後には裏山が控え、なんだか上の方から熊でも降りて来そう。湯舟の中央に、熱い湯の滝がしたたる仕組みになっていて、湯舟のどこで体を沈めていても顔に湯がはねるから、子供は大喜びだ。
 裏庭をさらに奥へ進む。左右に並ぶさまざまな小屋は、足湯だったり、蒸し風呂だったり、温泉卵を自分でつくれる場所だったりと、さながら温泉庭園。でも決してテーマパークとは呼びたくない。
 山の恵みを享受しているという、宿の人たちの感謝の気持ちが随所に現れているような、そんな奥ゆかしさがある。

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 小屋のならびに、薬師堂を発見。私たちも感謝の気持ちを込めて、手を合わせる。後で知ったけど、なんと坂上田村麻呂が奉納した薬師如来を祀ってあるのだとか。
 さらに進んでいくと、ほんの少し小高くなったところに、「月見の湯」と題された露天発見。混浴だ。脱衣所も吹きっさらし。湯舟の周囲にもほんの少しの植木とススキがあるだけで、かなり丸見えだけど、誰もいないし、ええい、私も入っちゃえ。
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 うひゃー。これは気持ちがいいや。やわらかい湯で肌をこすると、まるで乳液を塗っているようにすべすべする。チチチチと虫の音を聞きながら、ぼーっと空を見上げてみる。これが夜空だったら、ぽっかりと出た月に照らされて、さぞ気持ちがいいことだろう。
 「すんません、いいですかねー」
 いきなり年配のご夫婦がやってきて、こちらが呆気にとられている間に、もう帯に手をかけている。えっ、ちょ、ちょっと待ってーっ。
 「あの、い、いま、出ますから」
 「いいですよ、ボクら、ここから入っちゃうから。ゆっくりやってください」
 温泉慣れしてるご夫婦なのだろう。脱衣場にも至らない道の上でぱぱっと浴衣を脱ぎすて、植木をまたいでもう湯舟に入ってる。
 裸の付き合いっていうやつだろうか。まるでサルにでもなった気分…。

 ところで、この宿の名物温泉は、「湯」という形にとどまらない。焼山と名づけられた裏山のてっぺんにそれはある。100度を超える地熱を利用して、卵やジャガイモなどをホイルに包んで土に埋めて、蒸し料理が好きに楽しめるというのだ。
 さっき、駐車場に栗が落ちているのを目聡く発見して拾った息子が、これをどうしても食べたいというので、せっかくなら地熱蒸しにしてみようかと、重い腰を上げることに。
 想像したより急な山道には、サルのものと思しき糞があちこちに。息を切らしながら15分ほど上り詰めると、誰もいない硫黄色した砂浜のような広場に出る。
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 あちこちから、もわ~んと湯気が立ち上り、異次元の世界に踏み込んでしまったような不思議な光景。スコップが用意された広い穴のようなところに栗を埋める。
 そばには、むしろも常備されていて、これを好きなところに敷いてごろんと横になれば、下から地熱がゆっくり湧き上がってきて、体中がぽっかぽか。ちょうどいい湯かげん、ならぬ地熱かげんに、うとうと。そこら辺からサルが出てきたとしても、このまま寝たふりしてりゃいいや。
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 夕飯は、夕食処でいただく。
 地のキノコや野菜、川魚を中心とした山の料理。これといって珍しい料理が出るわけでも、豪華な皿が並ぶわけでもない。でもそんなものが、このひっそりとした山奥で出てきても、きっとものすごく嫌だなと思うに違いない。
 バブリーなカップルも、裕福そうなオバサマ同士のグループもいない。あちらのテーブルには、登山グループのような若者たちが「おつかれさまでしたー」と乾杯し、こちらのテーブルでは年配のご夫婦たちがゆっくりと食事をとっている。
 焼山で自分たちで蒸した栗を食べてみる。たった二つの小さな山栗だけど、栗の滋味がぎゅっと凝縮したような風味に、山里と温泉のめぐみを、しみじみ感じずにいられない。

 山と温泉をこよなく愛する人が足しげく通うような、そんな宿。
 でも、泊まれば誰もが、山と温泉に心から感謝したくなってくるような、そんな宿。
 そして、温泉宿の良し悪しをえらそうに評してきて自分が、思わず恥ずかしくなってしまう、そんな宿だった。


(そして翌日は、小布施参り。「地方発送不可」に加え、今年からは「取りお気も不可」になったため、安曇野観光もすっとばし再び高速に乗り小布施を目指す。小布施の話は、また次回にて。)

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ritz

Author:ritz
イタリア家庭料理研究家
本業は広告代理店コピーライター
1999年以来、毎年有給休暇を使い果たす作戦でイタリアへ料理修行。年に1〜2回のペースで子連れでイタリアの農家やマンマの家々を転々としています。
HP→http://www.ristorante-ritz.com
Facebook"マンマの台所Ristorante Ritz"→https://www.facebook.com/ristoranteritz/

著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
U.M.A.O.オリーブオイル鑑定士
イタリア料理、子育てから、日本の旅、秘湯まで。

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