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イタ馬鹿日誌

昼は会社員、夜は母、週末は自宅で料理教室。ristorante-ritz.comのイタリア馬鹿な日々。

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2007年夏 イタリア報告(1) ~南の島の、親子4代女の館にて(前編)~

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 いったいどうやって、こんな素敵な家に居候できることになったの?どうして料理を教えてもらえることになったの?
 と、聞かれることがよくあるけれど、ふと答えに窮す。というのも、なぜか「事の成り行きで」、気がつけばその家に泊まり、いつの間にか料理を教わっていることが多いからだ。
 ここ、サルデーニャ島の東海岸、アルバタックスに程近い小さな海辺の町、トルトリに住む、パオラの一家も例外ではない。
 私がパオラの家を初めて訪れたのは3年前。そもそもは、イタリア人の友人が「すっごくおいしい夕ご飯を出してくれる女主人の宿がある」と教えてくれたのがきっかけだった。
 Eメールもファックスもない女主人のパオラには直接電話で予約したはずなのに、いざ到着してみたら、私たちが泊まるはずのキッチンつきの部屋には、パオラの手違いで先客が。それなら、と代わりに通された二階の部屋でも、ぱっと見たところ特に不自由なかったが、寝室から続くテラスに出てみると、なんと、柵がない。当時、息子はまだ一歳。さすがにこれは…、と私たちが言い出す前に、彼女の方から
 「待って。やっぱりここは危険だわ。うちに泊まってちょうだい」となった。

 パオラの自宅と同じ敷地に、建築家と結婚した次女が、まるでコルビジェの家のような洗練された白亜の家を建てて住んでいて、こうして私たちはその3階の空き部屋にお世話になることになったのだ。
 広い田園の中にあった民宿と違い、トルトリの街にある自宅のことを「街中でごめんなさいね」とパオラはしきりに謝っていたけれど、私たちにとっては、十分「田園」であり、何の問題もないどころか、朝昼晩、隣の母屋の彼女の家で手料理をごちそうになるという思いも寄らない展開。とくれば、毎食、おのずと彼女の台所に入り浸って料理を習わないわけがない。
 夫を戦争で亡くした89歳の実母と、自分自身も20年近く前に夫を亡くしたパオラ、そして、私よりも年上の、嫁に出したはずの娘二人も、それぞれの夫たちと同じ敷地に住んでいる。なんだか、「どっかの家」とえらくソックリで、他人の家とは思えない空気も流れていた。
 小さい子供のいないこの家で、まるで孫のように私の息子のことまで世話してくれた彼らに改めて御礼参りがしたくて、そして、もう一度、パオラの作る子豚の丸焼きが、アニョロッティが、チーズをはさみ揚げしたパイが食べたくて、毎年イタリアに来るたびに再訪を検討するも、地中海に浮かぶ島国へはなかなか立ち寄る余裕がなく、ずっと実現できずにいたのだ。
 けれど、今回は、今年二度目のイタリアとあって、8月第二週からペーザロのオペラフェスティバルへ行く以外は、ゆとりある日程。しかも、最初から夫も一緒という絶好のチャンス。私は真っ先にパオラ一家への再訪を決め、東京から直行した。


 しかし、…やっぱり遠い。
 パリで乗り換えてローマには昨夜の深夜着。何も食べないまま空港に隣接したホテルで一泊し、今朝はろくに朝食も摂らずに朝一番の便でサルデーニャの州都、カリアリへ到着。        
 そしてここからが、さらに長いのだった。
 切り立った崖っぷちを縫うように走ったかと思えば、荒涼とした岩石むきだしの渓谷を舐めるような道になったり、後ろからものすごい勢いで迫る地元の車に先をゆずるスペースもない細い一斜線道路が延々と続く。海岸線に出るまでの辛抱とはいえ、大人でも、ウッと来そうになる山道。たった2時間ちょっとの道のりが、とてつもなく遠く感じる。
 サルデーニャ独特の荒々しく険しい大地の洗礼は3年前にすでに受けたはずだったが、何度来ても、侮れなかった。

 「ウー…、ワウッ、ワウッ、ワウーッ」
 やっとの思いでパオラの家の前に着きベルを鳴らすと、アルトゥーロが吠えまくりながら一目散に門めがけて襲い掛かってきた。盲目の老齢ダルメシアン、アルトゥーロ、健在だったのね。3年前と何一つ変わらない光景が、旅の疲れをふっと軽くしてくれる。
 「チャーオ!んまあ、何年ぶり!?大きくなったわね、Mはいくつになったの?ささ、お入りなさい。こらっ、アルトゥーロ、うるさいったら!」
 ほえまくるアルトゥーロを叱りつけながら、パオラが、門を開けに出てきた。これも変わらない光景。ついでに着ているアッパッパー(死語?)も、3年前と一緒だぞ。
 「さあさあ、暑いから早く入りなさい」
 容赦なく照りつける真昼のサルデーニャの日差しから逃れるように足早に家に入ると、冷房も一切入っていないのに天然の風がすーっと入ってくる。築50年になるこの古い一軒家も、隅から隅まで何にも変わってない。
 本の重みで棚の真ん中が歪んでいる本棚も、相変わらず。小柄で腰の曲がった、でもちゃきちゃきと元気なおばあちゃんが座っている椅子の位置まで相変わらず。

 「チャーーーーオ!リーッツ!元気だった!んまあ、Mったら、こんなに大きくなって!」
 続々と一族が集まって、パオラの家のテーブルが一気ににぎやかになる。
 会社から半ドンであがってきた次女のモニカと、建築家の夫セルジオ。
 陶芸家の長女カルメンと、そのパートナーのマイク。彼は放浪の旅で立ち寄ったこの地でカルメンと恋に落ち、そのままこの家に居ついてしまったイギリス人。私の予想では、もはやマイクはいないのではと思っていたが、どっこい、この二人の仲も相変わらず…どころか、なんと、二人の間には一歳半の娘、アリスが存在していた。
 こればっかりは、3年前とはまったく違う光景だけど、あれだけうちの息子のことをかわいがってくれた人たちが、子供好きでないわけがない。
 確か私の姉と同じ年だったカルメンだから、42歳のときに生んだ初めての子。そのアリスが、この女系一家にますますの活気とパワーをもたらせているのがわかる。

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「さ、みんな早くテーブルについて。Mもお腹すいたでしょう?」
着いてから、まだ5分と立っていないのに、テーブルは、山盛りの大皿でまたたく間に一杯になり、ワイングラスを置くスペースもないくらい。
 ジャガイモとペコリーノチーズを合えたペーストを、手打ちパスタで包んだ、サルデーニャを代表するアニョロッティ「クルジョニス」に、孔子の肉団子「ポルペッテ」に…。
 成田を経ってから、ろくなものを食べていなかった、すっからかんの胃袋には、もったいないくらいのご馳走。自分のお皿が空くたびに、「アンコーラ?(お代わりは?)」と聞かれ、答えないうちに盛られている。
 ああ、お腹いっぱい。もう、どこにも入る隙間がない。く、くるしい。
 と思いきや、台所からジュッワーという音が聞こえてきた。なんと、パオラが、牛の巨大ステーキを焼いているではないか。

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 「マンマ、作りすぎよ。もう誰も食べないわよっ」と冷たい娘たちの横で
 「いや、僕食べます」「僕も食べるよ」とその夫たち。
 「あ、じゃ、アンケ・イオ(僕も)」とうちの夫も小さく手を挙げている。
 姑の好意を無にしないよう、黙々と詰め込む旦那衆。強い女たちの間で右往左往している男たちの姿も、なんだか人ごととは思えない。
 「ヴィーエーニ、ヴィ、ヴィーエーニ(来て、来て)…」たどたどしい言葉で、アリスに呼びつけられるわが息子。鼻の下を思いっきり伸ばしながら、一歳半の女の子に言われるがままにしている4歳児の行く末も、この旦那衆の一員になっていたりはしないかと、思わず不安になってしまったりして…。

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 真夏のサルデーニャでは、昼ごはんのあとは陽が完全に傾く夕方まで、海も禁物、外出も畑仕事も禁物、が地元流。灼熱の太陽が照りつける時間帯は、ブラインドを下ろした薄暗い家の中で天然クーラーにふかれたり、シャワーを浴びたりしてのんびりすごすのだ。
 アリスとMの面倒は男どもに任せ、とっくに空になったエスプレッソカップを片手に、女たちは延々とおしゃべりに花が咲く。なんだか、すでにもう一週間くらい、この家に滞在してるような気分だ。
 「あら、かわいそうに、Mは長いGパンなんか履かされちゃって。暑いんじゃない?替えておやりなさいよ」
 パオラにそう指摘されて、私たち全員が日本を発つときに着てきた服のままだったことに気づく。そういえば、まだ荷解きもしていないではないか。
 バカンス気分のスイッチはとっくにONになっていたけれど、服のほうが付いてきてなかった。ここサルデーニャでは、短パンやアッパッパーでない方が浮くのだ。さあ、とっとと着替えねば。

 「で、いつまで居られるんだっけ?来週だっけ?再来週だっけ?」とパオラ。
 ほらほら、これだから、ダブルブッキングもしてしまうはずだ。
 今回は、ペーザロ入りするまでの一週間を、サルデーニャで。しかもそのうち後半は西海岸にも訪れることにしていたから、ここへは4日間しか居られないと伝えたはずだった。
 「そうか、そうなのね…」
 パオラは急に申し訳なさそうな顔になる。聞けば、この4、5日に限って、いつも長期滞在のお客に貸しっぱなしにしている民宿が、どの部屋も、たった一泊、もしくは二泊の客が入れ替わり立ち代りやってくることになっていて、部屋の掃除やら朝食づくりやらで、てんてこまいになりそうだと言うのだ。ただでさえ、畑仕事も、民宿の宿泊客の世話も、何から何まで、人を一切使わず彼女ひとりでやっているのだから大変なのは重々承知している。
 「だから、前回みたいに、お料理している時間がないかもしれないのよ。それだけがあなたに申し訳なくて」
 しかし、パオラにそう言われた瞬間、思わず真っ先に
 え?じゃ、今年はパオラにお料理教われないの?
 と一瞬でも思ってしまった自分の図々しさを、私はすぐさま反省する。
 今回の目的は、前回お世話になったことのお礼参りであり、成長した息子の姿を見せることでもあり、パオラ家の新しい家族であるアリスの顔をみることであったはず。だから、今回は、ゆっくりした時間を彼らと過ごしたり、浜辺でぼーっとしてればいいんだ。うん、そうだ。そうするのがいいんだ。絶対、そうだ。

 しかし、そう思い直したことも実は大きな間違いだったことに、つまり、のんびり過ごすなんてことは到底許されないことに、このあとの4日間で気づくことになるのであった。

……次回へつづく。

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コメント

楽しみです

いよいよ、イタリア滞在記が始まりましたね~!
とても楽しかったです。
続きを早く読みたいです。

そして栗拾い・・・。
我が家でもやってみたい!
ぜひ、いつも行ってらっしゃる農園を教えて下さいませ。

ではでは。

みつまめ様

中途半端な滞在記ですみません。
次回のなる早のUPを心がけます!

栗拾い農園、今度お教えします。
10月半ばくらいまで、いけそうですよ。
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Profilo

ritz

Author:ritz
イタリア家庭料理研究家
本業は広告代理店コピーライター
1999年以来、毎年有給休暇を使い果たす作戦でイタリアへ料理修行。年に1〜2回のペースで子連れでイタリアの農家やマンマの家々を転々としています。
HP→http://www.ristorante-ritz.com
Facebook"マンマの台所Ristorante Ritz"→https://www.facebook.com/ristoranteritz/

著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
U.M.A.O.オリーブオイル鑑定士
イタリア料理、子育てから、日本の旅、秘湯まで。

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