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復活祭に、復活を願う旅へ②

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2000年秋。トルテッリーニ作りの"人間国宝"、イリスと。
私がこんなに若かったくらいなんだから、当時すでに76歳だったイリスがどんだけさらにおばあちゃんになったのか、頭の中ではわかってるつもりなんだけど、私の中ではいまだに76歳のイリスのままだ。
ボローニャとモデナの間に位置するカステルフランコ。トルテッリーニ発祥の地と言われる小さなこの田舎町の、さらに町外れの畑の中に佇む、歴史ある「トルテッリーニの宿」に何十年も奉公しつづけてきたイリス。
私がイタリアの田舎料理の真髄に目覚めてしまったのも、20年前に旅行で訪れたこの宿でイリスのトルテッリーニを食べたのがすべてのはじまり。17年前に会社休んで料理修行に行くことを決意したのも、彼女のトルテッリーニのせいといっても言い過ぎではない。
そして今度は旅行者としてでなく、秘伝のトルテッリーニを教えて欲しいと図々しく宿を再訪した私を工房に招き入れ、トルテッリーニを教えてくれたのも、このイリス。いや、教えてもらったというより、その機関銃のようなおしゃべりを浴びながら、ひたすら一緒に手を動かし働かされたといったほうが正しいかもしれない。
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その後、イリスの長年のパートナーでもあった宿の女主人が病気で亡くなってしまったあと、残念ながら宿は人手に渡りイリスも引退するのだけど、ボローニャやモデナを訪れるたびに、必ずイリスの家に顔を見にいくようにしている。
何があってもおかしくない高齢ゆえ、イタリアへ発つ前に必ず、いついつに行くよ、と電話をするのだけど、私が名乗らないうちに「ニンニ!」とすぐに気づき(ちなみに、ニンニとは赤ん坊や子供を呼ぶときの言葉。何度教えても名前では呼んでくれない)、「ああ、あたしゃもう、あんたが来る頃にゃ、あの世にいってるよ」が口癖。そして家を訪れピンポンを押すと、のっしのっしと出てくるなり私をむぎゅっと抱きしめるその目には涙がいっぱいたまっている。これもいつものこと。で、子供達の頬を交互に撫でては「ああ、こんなに大きくなって…」といってまた泣くのだ。
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もしかしたら、もうこれで最後かもしれない。お互い毎回どこかでそんな風に思っていながら、それでもイリスに元気がなくなるなんて日がくるのを私は想像すらしたことがなかった。
そのイリスが入院したのは去年の夏。イタリアに行く直前に電話で話したときは変わった様子もなく元気だったのに、その直後のできごとらしい。体調が悪くまずは検査入院ということのようだけど、「ぜひ病院にいってあげて」というお嫁さんの言葉がいつになく意味を含んでいるような気がして、病院にまで会いに行ったのだ。
病室に入るなり、巨大な体をベッドから起こして立ち上がり、「あ、立たないでいいから…」と歩み寄った私を抱きしめたイリス、でもその腕にはいつもの力がない。涙目どころか、二人して抱き合ったままおいおい声をあげて泣いた。
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その後、検査の結果がどうだったのか、詳細を聞けずじまいでいたけれど、なにかが見つかってももう手術ができる歳ではないと。そうか。17年前に聞いた年齢、イリスがサバ読んでなかったとしたって、もう92だ。
その後、「イリスは家で静かに時を過ごすことを決めて退院した」と人づてに聞いたとき、ああ、もうこのまま会えないかもしれないと心の奥で悟りつつ、祈ることしかできなかった。
そして今回のイタリア行き。滞在地にボローニャを選んだのは、ボローニャでお世話になったいろんな人たちへの里帰りも目的だけど、もうひとつは、やっぱり、隣町のイリス。その後の様子を探るべく、前回聞いた孫娘のメールアドレスに連絡してみたけれど、なんの返事もない。ますます心配になる。しかし、イリスの身に何が起こっていようとすべてを受け止めるつもりで、考えたくはないけれど、お墓まいりに行くことになるかもしれない、そんな覚悟の上で、思い切って家に電話してみた。きっとお嫁さんが出るだろう。そしたら、なんて話を切り出そうか…。ドキドキしながら呼び出し音を何回きいただろう、しばらくして、やっと出た受話器の声は、なんと、イリスだ!
「私だよ、ニンニだよ!」
「んまっ。んまっ。なんてこったい。ニンニ、ああ、ニンニ…」
よかった!復活していた!
最初電話口に出たときは元気がなかったけれど、話しているうちにいつものイリスの調子が出てきている。
いついつにイタリアに行くよ。家にいってもいい?と伝えると、
「ブラーヴァ。ブラーヴァ。待ってるよ。子供達も一緒だろ?待ってるよ」と。ああ、本当に嬉しい。
ひとつだけ、いつもみたいな「あんたが来る頃にゃ、私はこの世にいないかもしれないよ」といういつもの口癖が聞けなかったのが気になるけど、それはさすがにそろそろ洒落にならないと本人も気づいたのかも。
復活祭の季節に行くイタリア。私にとってそれは、いろんな人の復活を願う旅。
イリス、もうすぐ行くからね。どうか元気で待っていて。そしてまたむぎゅっと強い力で私を豊満な胸の中にうずめてほしい。お願いだよ、イリス。
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ritz

広告代理店コピーライター
イタリア家庭料理研究家
HP→http://www.ristorante-ritz.com
著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
イタリア料理、子育てから、オペラ、日本の旅、秘湯まで。

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Author:ritz
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