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この夏、再訪するところ③ 秘境の男宿。

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 唐突だけど、もしもある日突然、自分が逃亡生活を送らねばならない身になったとしたら、真っ先に向かうであろう場所がある。住所に番地もついてないようなこんな山奥の宿で、誰に見つかることもなく人知れず一生を終える人生もありかもしれない。太陽とともに起き、鴨やホロホロ鳥たちと散歩をし、野菜や果物を育て、大地の滋養たっぷりの自家製食材で料理をつくり、そしてお腹いっぱい食べる。それ以外何にもすることがないけれど、それ以外いったい何をする必要があるというのだろうと、この宿に毎年やってくる常連たちは誰もが思っているはずだ。
 妄想ついでにいうと、逃亡生活を送るのだったら、結婚してイタリア姓を名乗るに越したことはない。なんたってそこには、花と動物と料理をこよなく愛する心の透き通った40代の独身男が3人も住んでいるのだから。

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 ローマから北西へクルマで二時間。イタリア20州の中で唯一海のないウンブリア州に広がる丘陵地帯、カーナビすらも道を見失う山奥にその宿はある。
 初めてここを訪れた11年前の時点で、70もとうに過ぎた老夫婦と、40代半ばの長男パオロを筆頭にした独身の3兄弟が、一家総出で切り盛りしていたアグリトゥーリズモ。ピエモンテの女三姉妹の貴族の館と正反対もいいところ、野郎3人の男くさ〜い山奥の家なのだけど、なぜだろう、なんか、すごく、好きなのだ。以来、なんだかんだ6回は訪れているけれど、この11年の間、いつ行っても、なにひとつ変わらない時間が淡々と流れている。真っ赤な夕日が山の向こうに沈むのを見ながら、みんなで囲むテラスでの夕餉。打ちたての極太パスタの黒トリュフソース。放し飼いのホロホロ鶏とニワトリが駆け回る庭…。この10年で唯一変わった事と言えば、三男グイドが結婚して所帯を持ったということくらいだろうか。
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 彼らの年老いたマンマと二人三脚で、代々受け継がれる伝統の味をふるまうのは長男パオロ。おもいっきり粗野で素朴で田舎くさくて、でもガツンと強烈な個性があって、それなのにとてつもなく優しい料理。男手しかないからタオルも変えてくれないし、ベッドもそのままだし、古い部屋にはいつも得体の知れない虫が必ず入ってくるけれど、なのに足しげく通うことをやめられない。いってみれば、超極上の田舎宿。
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 さて、もっと続きが書きたいのだけど、旅の準備に追われて時間切れ。続きは、現地からご報告できたらと思います。
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ritz

広告代理店コピーライター
イタリア家庭料理研究家
HP→http://www.ristorante-ritz.com
著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
イタリア料理、子育てから、オペラ、日本の旅、秘湯まで。

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Author:ritz
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