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つるつるマエストロ、パオロ・カリニャーニ。

何を隠そう、ハゲ好き、というか、つるつるのスキンヘッド好きである。
具体的な理想の人が、たった一人、存在する。
パオロ・カリニャーニ。イタリア人の若手マエストロだ。
チラシのマエストロの写真に惹かれて彼の初来日コンサートに行ったのが2年前。
しかし、そのとき聴いたストラヴィンスキー「プルチネッラ」を聴いて一回でファンになった。
決して聴きやすいとはいえないストラヴィンスキーの曲を、
まるでひとつひとつ、丁寧に、ミーハークラシックファンの私に紐解いてくれているような指揮。鳴り止まぬ拍手の中、会場のすみずみの観客に向かって何度も笑顔でお辞儀をする気配りもますます素敵で、完全に虜になってしまった。

続く来日は、昨夏の読響との共演。
あたしゃ、おっかけか? というくらい、全公演のチケットを早々に購入し、
サントリーホール、ミューザ川崎、みなとみらいホールへと通う二週間。
しかし、想いが通じるとはこういうことを言うのだろうか、
なななんと、マエストロと大の親友という方を友人に持つ方が声をかけてくださり、
ひょんなご縁で、いっしょに楽屋までお邪魔することができた。
あまりの緊張と興奮で、大して話はできなかったけど、マエストロとは思えないほど、気さくでおしゃべり。写真をお願いすると、「もちろん、喜んで!」と私の肩に手を乗せてニッコリ。典型的な明るいイタリア男であったことに、大きく意表をつかれたものの、ますます熱烈なファンになってしまったのだ。

そんな彼が、今年の夏も、読響のゲストマエストロとしてやってきた。
今回は、当初の予定指揮者が急遽来日できなくなり、代役としての来日だったから
こちらも直前まで気づかずに、公演日のほとんどがすでに予定あり。不覚にも、今夜のチケットしか買えなかったのが悔やまれる。
去年、楽屋まで連れて行ってくださった方も、急なことで仕事の調整がつかず、今回は楽屋行きは果たせなかった。

しかし、そんなことはもうどうでもいいくらい、
今夜の演奏は、今までのマエストロのコンサートの中で、ある意味、最も衝撃的だった。
まず、今回も演目のひとつはストラヴィンスキー。中でも、変拍子と不協和音であふれる「春の祭典」という、またまたマニアックな彼の選曲。
この曲、まるで、おもちゃ箱をひっくり返したうえに、本棚も倒して、ちゃぶ台もひっくり返したような、そんな旋律なのだが、毎度のことながらマエストロの手にかかると、
「いやいや、それは違うよ。ほらね」と散乱した物を一つ一つ並べなおしてくれているような、そして「ああ、これはこういう曲だったのね」と深く納得してしまうような聴き心地。初めて「春の祭典」を理解できた気がする。

一方、もう一曲は、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲2番」という、意外にもマエストロらしからぬメジャーすぎる曲目。
ピアニストは彼の代役が決まる前から決まっていたのだろうし、おそらくこれはマエストロの選曲ではないのだろう。でも、彼がどんな風に操るのか、常に彼を誉めちぎりたいファンとしては、有名すぎる曲だけにちょっと不安な気持ちもよぎる。
さて、マエストロと腕を組んで登場してきたのは、盲目のピアニスト、辻井伸行。
マエストロがこの若き18歳のピアニストの手を取り、そっとピアノの縁に置いてあげると、彼は椅子の場所を慎重に確認しながら静かに腰を下ろし、左右の手をそれぞれ一番端の鍵盤に一瞬だけ置いたあと、そこから逆算するように鍵盤の位置を探り、指を載せる。
小さな咳払い一つさえ聞こえない場内の恐ろしいまでの静寂の中、彼の演奏が始まった。

正直、こんなラフマニノフを聴いたのは初めてだ。
それは、ラフマニノフ自身が描こうとした、激動ロシアの血潮あふれる旋律でもなく、
恋愛映画のテーマソングとして使われたドラマチックな旋律でもない。
少なくとも私は、こんなにも繊細で、やさしさに包まれたラフマニノフは聴いたことがない。
確かに、ほとんどのピアニストが、この曲で表現するような迫力には、欠けるかもしれない。
でも、彼にしかできない、目が見えないというハンディを克服するだけの、健常者より何百倍も研ぎ澄まされた感性を持つ彼にしか弾けないラフマニノフ。心の一番奥底で作り上げられた音は、聴いてる人間にも心の一番奥底に響くのだろう。身震いがすると同時に、安らぎさえ覚える。

そしてそれは、マエストロ・パオロ・カリニャーニによるところも大きいことはいうまでもない。
ピアニストの才能、個性を信じ、それを尊重するだけでなく、最大限に引き出すことを惜しまないサービス精神と包容力。
自分の嗜好や名声ではなく、あくまでも楽団員とピアニストの持ち味に協調し、そして操るという技。
協奏曲の「協」の意味を、これほど強く認識させられたことはない。
と同時に、マエストロ・パオロ・カリニャーニのマエストロとしての偉大さを、改めて痛感せずにはいられない。
(ああ、そして、今日も汗が光る、見事なつるつる頭も、相変わらず素敵。)

心が潤うって、こういうことを言うのだろう。コラーゲンがたっぷりしみわたったような、なんとも言えないこの心地よさ。しばらくは、持ちそうである。


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ritz

広告代理店コピーライター
イタリア家庭料理研究家
HP→http://www.ristorante-ritz.com
著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
イタリア料理、子育てから、オペラ、日本の旅、秘湯まで。

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