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イタ馬鹿日誌

昼は会社員、夜は母、週末は自宅で料理教室。ristorante-ritz.comのイタリア馬鹿な日々。

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神様と過ごした週末

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6月半ば。
私立なのに休みが短いMの学校において、たまーにやってくる教員研修のための平日休みというやつはものすごく貴重。よその家庭では申し合わせてディズニーランドやキッザニアに行ったり、子供同士で誘い合って遊んだりするのだろうけど、友達少ない母子のもとへは誰からもお声がかからない。でもそれを寂しいとも思わないのがまたアウトローな我が家。土日とくっついた三連休とあらば温泉宿ハシゴは当然として、今回はもうひとつ果たせばならないことがあった。

それは地鎮祭。
長年田舎ぐらしに憧れて土地を探していた夫が長野県内にやっと気に入った土地を見つけて安く手に入れたのが3年前。家の設計をお願いしたのは、旧知の建築家A先生。その作業のペースがゆっくりなのもあって、またこちらも次男が生まれたりなんだりで、足掛け3年でやっと設計が固まった。この春を待って、土地を覆い尽くしていたカラマツの伐採も終わり、やっと着工にこぎつけたのだ。
折しも、秘湯を守る会のスタンプも3冊目の満了に伴う「無料で一泊・ただし平日泊」の使用期限も6月一杯までと、タイミングよくいろんなことが重なった。

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初日の地鎮祭は、梅雨の晴れ間の透き通る青空。「お天気に恵まれる」というのは、まさにこういうことを言うのだろう。
風が木々を通り抜ける音、鳥の声、蜩の音、そして神主さんの声。それだけ。
ここに着いたときA先生が、カメラを首から下げて車から降りてきたMにまっさきに「今日は神様が下りてくるんだよ。見えるよ。しっかり撮ってね」と声をかけていたけれど、本当に何か尊いものがこの地に舞い降りてきたような気がした森の中の地鎮祭。
パッとしない天気の、パッとしないこと続きだった東京での日々から、まるで梅雨までも一気に飛び越えちゃったかのような錯覚を覚える。工事の無事を祈り土地の神様に祈りをささげる地鎮祭だけど、このところザワザワと雑念に振り回されていた私の気持ちまでも鎮めてもらっちゃったような…。
工務店の方がすべて準備万端整えてくださったおかげで、万事とどこおりなく終了。
午後は、A先生が手掛けた軽井沢の別荘や、建設中の物件を一緒に見学させて頂いた後、我々は今夜の宿へ向かう。


さて、「秘湯を守る会」のスタンプ帳とは、会に属した宿に泊まるとスタンプがもらえて、10個すべて溜まると、その中の一つの宿から好きな宿に、平日に限り無料で宿泊できるというもの。タダならば一番高かった宿を選ぼうと思うのが庶民根性、しかし今回もお目当ての宿は平日というのに予約でいっぱい。せっかくの無料券の権利を、おそらく今回のスタンプ帳で溜めた10軒の中で最もリーズナブルであると思われる宿で使うことになろうとは…。

軽井沢から小諸へ向かう浅間サンラインからチェリーラインを北へ。浅間山をあおぎながらひたすら山道を登っていく。浅間2000スキー場も越え、道もどんどん細くなり、この先いったい何があるの…?と不安になりかけた頃に到着するのが高峰温泉だ。
「標高2000メートルのランプの宿」として登山をする人たちの間ではちょっとした有名な宿で、ここを拠点にして周囲を取り巻く山々に挑んだり、湿原のトレッキングを楽しむ常連客で賑わっている。
前回訪れたのは3年前。冬の間は雪上車でないとアクセスできないほどの山の上、トイレも洗面所も共用だし、山の自然を汚さないようシャンプーも禁止、もちろん石けんも…と聞けば当時小学1年生のMを連れてくるのもちょっとした勇気が要ったのを覚えている。しかし、そんな都会人にとっては一見不便極まりなさそうに聞こえる生活も、いざ一泊してみれば不自由さなど覚える余地もないほど、山の自然に心と体が浄化されていく大切さを身を以て体感、今度は小1どころか1歳の子供を連れて来てしまったというわけ。
相変わらずきめ細かいサービスが整っているわけでもないし、部屋は六畳くらいしかなくて布団敷き詰めれば荷物の置き場所もない。そんな高峰温泉に、3年前にはなかった新しいものが増えていた。それは手作りの「野天風呂」。まずは早速行ってみる。
裏山の野天風呂へと誘うのは宿の裏口。スリッパから外履きに履き替える場所には、脱衣籠が上段、下段に4個ずつおいてあり、ここから籠を持っていく。それぞれに「女」「男」とでかでかと書かれているのは、野天風呂の定員が男女それぞれ4名ずつで、ここに男女どちらの籠がいくつ残っているかで、野天風呂にあと何名入れるかがわかる仕組みになってるようだ。
こういうときふと、ああ、私だけが一人で女湯か…という事実を突きつけられるのだが、そんなとき必ず「ママと入るよ」と行ってくれるのがM。幸い籠が8個すべて残ってる、つまり誰もいないようので、私とMは「女」の籠を二つもって女湯へ。
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木立に囲まれた庭の中、女湯と男湯の分かれ道で、夫&次男と別れ植え込みを入っていくと…うわ〜、なんだこれは!
確かに野天風呂。野天風呂だけど、崖っぷちにちょこんと置かれてるだけの檜の箱、そして「標高2000メートル雲上の野天風呂」と掲げられた看板とランプ。それだけ。
それでも超シンプルな風呂に身をゆっくりしずめてみると、深い緑の山々、空、眼下に見下ろす霧、大自然の懐に裸ひとつで抱かれていることの気持ちよさといったら、言葉にならない。
ちょっとした植え込みを垣根に、男湯はすぐ隣にあることが判明。どうせ他に誰もいないなら「ママ〜、僕たちも男湯入っちゃおうよ〜」となり、最後は男湯乱入と相成った。
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高峰温泉の真骨頂はしかし、もともとある二つの内湯。大きな檜の湯船は、丸太を境に源泉そのままのぬるい湯と、加熱した熱い湯があり、温冷浴を繰り返すことでさまざまな効用がある。全国でも数少ない温泉療養士がいて健康の相談にもきめ細かく乗ってくれる。トレッキング兼湯治目的できているおばさまグループが大勢いるのもうなずける。
食堂でいただく夕飯には山の幸がテーブルいっぱいに用意されモチモチのご飯をいくらでもおかわりしたくなる。夕飯後は、晴れてさえいれば欠かさず星空観測会を催していて巨大な望遠鏡でさまざまな星を存分に見させてもらえる。なんてあたりの話は、3年前のブログで紹介(http://ristoranteritz.blog92.fc2.com/blog-date-20091006.html)したのでここでは言及しないことにしよう。
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夕方から小雨も降り始め、厚い雲に覆われた今夜は観測会は中止。代わりに開催されるスライド上映会をMとのぞいてみる。スタッフが周囲の山中や湿原で撮った花や鳥の写真が映し出されるたびに「うわ〜、○○の花ね!」とか「お、すごいの撮れたね〜」といった歓声が。山オタク(?)にしかわからない未知の世界がいろいろあるようで…Mの参加態度も悪くなって来たので早々に退散す。
寝る前にもう一度と、Mと内湯の女湯に入ると、窓の外、ガラス一枚隔てた目の前にごそごそとなにやら動くものが。見ると…キツネ?いやタヌキだ!木の実をあさっているのか、こちらがギャーギャー騒いでも動じることなく黙々と食べている。
お湯に入る素っ裸の人間も、木の実をたべるタヌキも、山の中ではみんなおんなじ生き物なんだな、と妙に納得したりして。山の中の一軒宿、高峰温泉。その効能はお湯だけにあるわけじゃないのは明らかだ。



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さて、翌日は北軽井沢を抜けて群馬県へ。次なる温泉宿は、中之条市から北へ20分ほど走ったところにある山あいの村、たんげ地区にある「美郷館」。
もともと清流と森と畑しかなかったという50戸ほどの小さな集落。20年ほど前に、過疎化が進む一方の村をなんとかしようと、ためしに地下を掘ったら温泉が出てきたとか。共同浴場でも作ろうかという話を、宿を作らないと県外から人は来ないと、地元で林業を営む社長が自社の土地を開放して作った宿なのだそう。
確かに、山里の段差を利用した小さな田んぼには緑の苗が瑞々しく育っているのに、人っ子ひとり歩いていない。渓流沿いの道を上り詰めていった先に、その建物は忽然と現れる。中に入ると、欅づくしの見事なロビー。至る所に木がふんだんに使われているのも納得しきり。
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私たちが通された部屋は、二階の角部屋。部屋に入った瞬間、家族全員で口を揃えて「うわ〜」と言ってしまう。広い。きれい。部屋がふたつもある。もちろん決して派手な宿ではないのだけど、高峰温泉からやってきた身にはすべてが豪華に感じてしまう。
「うわ、すごっ」真っ先に部屋にあがりこんでいったMが突き当たりで声を上げてる。なになに?!うわ、ほんとにこりゃすごいわ!
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二面がガラスになった窓の向こうは、絵に描いたような滝、青々としたもみじの木々の間からの木漏れ日。まるで渓流に突き出した「川床部屋」のようになっている。特にお願いしたわけでもないのだが、宿の見取り図を見ても、どう考えてもいちばんいい部屋ではなかろうか。
18部屋しかないこじんまりした宿なのにお風呂も充実。いろんな風呂がいろんな場所に、しかも時間ごとの男女入れ替え制で用意されているから、全部制覇するとなると6つのお風呂に入らないといけない。ふと、女である私は夕飯前に入っておかなくちゃ逃してしまう風呂が二つもあることに気づき、慌てて支度する。
まずは、渓流沿いの露天風呂「月見の湯」へ。のこのこMも付いてくるも、さすがに4年生ともなると先客のおばさんグループの中に入っていっていいものか…そんな私の気まずい思いを察してくれたのか、いや、到底そうとは思えないような北関東訛り満載のおばちゃんたちが、脱衣場から外に出て来た私たちを真っ先に迎えてくれる。
「ほれ、お兄ちゃんゆっくり入りな。おばちゃんたち、もう出っからサ」
ああ、よかった。この宿も、好きなタイプの宿だ。
初めての宿に来たとき、お風呂に来るとその宿の本質は大体わかる。お湯の善し悪しはもちろんだけど、その宿がどんなタイプの人たちのための宿なのかを知る、ある意味鏡のような場所だと思う。
おばさんたちがいなくなり、石造りの広い浴槽をMと二人じめ。渓流をのぞむように展望台といってもいい広いスペースが広がる。きっと誰もが、他の客がいなくなり一人になった瞬間、ここに仁王立ちになるに違いない。なんて思ったそばから「ママ、見て」と言われて振り返ると…
「テルマエ・ロマエ」だって。アホや…。
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勢いにのって、部屋に戻らずもう一つ「滝見の湯」をハシゴ。これまた貸し切り状態。我先にと浴衣を脱ぎすて飛び込んでいったMが、今度は
「マ、ママ…、か、亀が…、亀が…」とか細い声を出し固まっている。
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またしても、アホや…
んな、本物のわけないじゃん、木彫りだよ。と私がペチペチと叩いてみせると
「え?そうだったんだ!でも、ママって勇気あるね」だと。
もう、どうしようもないアホや…
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内湯なのに、滝壺にすっぽりと包まれたような野趣あふれる風呂。そういえば宿の人が最初にお風呂の説明をしてくださったときに「うちの名物の“滝見の湯”は…」と言っていたのを思い出す。同時に、この風呂のちょうど真上に私たちの部屋が位置してることにも気づく。なんだか、ますますいい感じだ。

3時にチェックインしたこともあり夕飯までまだまだ時間があるので、今度は家族で貸し切り風呂へ。渓流にせり出すようにして二つの貸し切り風呂が並んでいる。まずはそのうちの檜づくりの方へ。
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部屋から見るのとはまた別の、流れ落ちる次なる滝を今度は上から見下ろすというこれまた絶景。柵もないので、次男には細心の注意を払わねば。
子供ができると家族風呂は助かる。子供が男しかいないことが決定的になった今では唯一の女である私にとってはその必然性はますます大きくなって来るのだが、一口に貸し切り風呂といってもピンキリで、宿によってはただ家族で入れることだけを目的に作られたようなものもある。でもこの貸し切り風呂は、他の風呂では味わえない景色とお湯がちゃんとあるのが嬉しい。
なかなか出てこないような若いラブラブカップルも、この宿には一組もいないのがまた嬉しい。ひきかえ隣の貸し切り風呂からどやどやと出て来たのは、おっさん二人。この人たちも、この貸し切り風呂じゃないと味わえないものを求めてわざわざおっさん二人で入っているのだろう。

部屋で食事をいただく宿もそういえば久しぶり。でも、布団を敷く部屋がもうひとつ用意されているので、せかされることもなくだらだらとしていられるのが有り難い。
山里の恵みあふれる料理の数々。見た目は瀟洒な懐石と見まごうほどの華やかさだけど、その味わいはどれもこれも素朴でおいしい好みの田舎の料理だ。
風呂も料理も部屋も、まるで湯河原あたりのバブルな高級宿に泊まっているような贅沢さ。でもお湯と人と味は、どこまでも素朴で温かで豊か。
長い初夏の一日も気がつくととっぷりと暮れて、ふと窓の外を見ると、滝がライトアップされている。夜の景色も格別。
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これで2万2000円とは、申し訳ないような。誰にも教えなくない、有名になってほしくない、そんな宿だ。

さて、夕飯後は女湯タイムとなった「瀬音の湯」へ、またしてもMと。こうして私にくっついてきてくれるのもいつまでだろう。このまま時間がとまってくれればいいと、Mと女湯に入るたびに最近いつもはかない気持ちになる。
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滝見なわけでも露天なわけでもない、ただの内湯と思っていたけど、これがまたすばらしい。高い天井までの檜の壁。窓からは渓流の風と音。湯船の底にはゴロゴロと大小さまざまな形の石が無造作に敷き詰められていて、本当に川の中を泳いでるような気分。この瀬音の湯、なにげで一番好きかもしれない。

翌朝は、もう一つの貸し切り風呂、石造りのほうへ。これでやっとすべてのお風呂を制覇したことになる。
こうして家族風呂を有り難いと思ってられるのもしかし、あと何年だろう。そのうち毛でも生えて来たら、息子たちは貸し切り風呂だって一緒に入ってくれないんだろうな…
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最後に、宿の人から教わって、宿の裏山のふもとに湧く水を汲ませていただく。川にかかる橋を渡りながら宿を川上から見下ろすと、何段にもわたって滝が落ちる渓流に、見事に沿った形で建てられているのがわかる。
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たまには行ったことのない宿に行ってみよう、そんな軽い気持ちで来てみた宿だったけど、予想外に堪能してしまう。今のスタンプ帳がいっぱいになったら、タダ泊はこの宿にしようかな。いや、満了を待たずしても紅葉の季節に来たら、あの部屋、また格別だろうな。
「いやあ、それがね。川風のあたるもみじですから、そんなにいい色にはならないんですよね」
と宿の人はあくまでも商売っけなし。それがまたこの宿の良さなのだろう。

森の中に神様がおりて来た初日に始まって、雲を見下ろしたり滝を見下ろしたり。なんだか神様と過ごしたみたいな週末。そんな極上の恵みで満たされた旅のあとは、帰りに寄った伊香保のグリーン牧場も、おもちゃ博物館も、なんだか空虚に感じてしまうのは言うまでもない。
Mもこの先どんどん中学受験体制に巻き込まれていく日々。次に温泉宿2連チャンできるのは、ああ、いつかな…。
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コメント

こんばんは

癒やしが満載のところでいいですね。
入浴する傍に川や滝わたしもどこかゆっくり行きたいんですけどねe-125
最近、車を購入したんですがETCがついてるので今度はどこまでもいけそうです(笑)

暑い日が多くなりましたが十分お気を付けてe-463
またきます

十夜様。車ご購入、おめでとうございます!最近は若い人も車なんて興味ないと夢のないことを言うので、カーナビ付き車、なんて話はつい嬉しくなります。
秋田のあたりはちょっと走らせれば素敵な温泉がたくさんあるのでしょうね…行ってみたいです。
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ritz

Author:ritz
イタリア家庭料理研究家
本業は広告代理店コピーライター
1999年以来、毎年有給休暇を使い果たす作戦でイタリアへ料理修行。年に1〜2回のペースで子連れでイタリアの農家やマンマの家々を転々としています。
HP→http://www.ristorante-ritz.com
Facebook"マンマの台所Ristorante Ritz"→https://www.facebook.com/ristoranteritz/

著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
U.M.A.O.オリーブオイル鑑定士
イタリア料理、子育てから、日本の旅、秘湯まで。

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