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ゴールデンウイークの思い出   2007春イタリア報告(1)

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「ゴールデンウィークの思い出を絵に描きました。ご自由にご覧ください」
保育園のロッカーの上に、子供たちの描いた絵が束になっておいてある。
「動物園にパパとママと行きました」「公園でサッカーをして遊びました」
先生の字で注釈が代筆された子供たちの絵は、みんなそれぞれ個性があって面白い。ぱらぱらめくっていると、横からEちゃんのママに話しかけられる。
「M君の絵、見たわよ。笑っちゃった。うちの子もそうだけど『ちょっとー、思い出にすべきなのは、そういうことじゃないでしょー』って言いたくなるのよねー」
と、苦笑を買ったうちの子の絵はといえば、まず、大きな飛行機と、小さな飛行機、その間にバスの絵。飛行機には、私と息子と思しき親子が乗っている。それから、画用紙の左隅に、小さな自動車。先生の注釈が、また、なにもこんなに書かなくても…というくらい5~6行にわたって書かれている。

ママとイタリアに行きました。
大きな飛行機に乗りました。
バスに乗りました。
今度は小さな飛行機に乗りました。
パパとママが寝坊して
ひとりで起きてテレビを見ているところ。

Eちゃんのママの苦笑を買ったのも無理はない。確かに「おいおい、肝心の旅の中身が抜けてるよー」と突っ込みを入れたくなる。
交通手段であった乗り物の数々の絵。実に上手に描けているとは思う。
一人でテレビを見てる絵もわかるが「パパとママが寝坊」したのはイタリアから帰国した翌朝の話だ。
現地であれだけいろんなことを経験させてやったイタリアだったのに、なんでまた、イタリアへ着くまでと、帰ってきた翌朝の話で終わってるわけ?とあきれたくなるが、考えてみれば無理もない。

なんたって、片道、計18時間もの長旅だった。
昼過ぎに成田を発って、パリに着くまで12時間半。日本時間で言えば、真夜中に着陸することになる。
トリノ行きの飛行機に乗り換えるのに、3時間も待たなきゃいけないうえに、だだっぴろいシャルル・ド・ゴール空港のターミナルを二つ分も歩かないといけない。
それまでちっとも寝てくれなかったくせに、パリに離陸する寸前にうとうとし始める息子に、今度は手の平を返したように「お願いだから、今は寝るなーっ!」と檄を飛ばす。
 
こんなに満席だっつうのに、ターミナルに直付けしてくれず、バス移動。
やっとターミナルについたものの、東京よりもさらに異常なパリの気候は、4月末だというのに25度だと。一面ガラス張りの長い長い通路に思いっきり差し込む西日を浴びながら、ふらふらの息子の手を引いてひたすら歩く。おしゃれな建物なんだろうけど、まるで蒸し風呂だ。
「ママ、ここのベンチでちょっとお休みしていかない?」
ああ、私だって休ませてやりたい。しかし、今ここでひとたび座らせしまったら、一瞬にしてこのまま深い深い眠りについてしまうに違いない。
彼の予備薬やら着替えやらでいっぱいになったボストンバッグと、自分のカメラとパソコンが入った手荷物、そして、息子が背負うのを放棄したペンギンリュックを抱えたまま、さらに彼を抱っこして歩くのは、どう考えても不可能だ。
心を鬼にして、とにかく歩かせる。

やっとの思いでトリノ行きのターミナルに到着。しかし、出発まで3時間もある。居候先のカステッロに到着するのは夜11時を回ってしまうから、とにかく今のうちに何か食べさせておこうと、カフェに入る。
頼んだのは、クロックムッシュとオレンジジュースとカフェオレ。
しかし、そのクロックムッシュの油っぽくてまずいことといったら…。「もう、いらない」と息子も一口しか食べない。おまけにオレンジジュースは予想外に炭酸入りときた。「からいの、いや」とこれも放棄。
結局ほとんど口をつけずに店を出る。これだけで20ユーロ。3200円。
ふざけんなーっと怒る気力も沸かない代わりに、むなしい疲労感だけが広がっていく。
ああ、なんだか「異国」だなあ。パリは。

結局、早々にセキュリティチェックを通って中に入る。一度寝るタイミングを逸した息子は、今度は目が冴えてしまったらしく、じっとしていられない。
汗のかいたTシャツを着替えさせたり、トイレに行ったり、土産物屋を冷やかしたりして時間をかせぐ。
「これ、冷蔵庫につけるマグネットでしょ。ワインの形だよ。パパに買っていこうよ。よろこぶよー、きっと」
息子の機嫌とりに、言われるままに冷蔵庫につけるマグネットを購入。8ユーロ。1300円。高っ。もう、どうでもいい。

早々にトリノ行きの便が離陸するゲートの前に行き、ベンチに座って時間をつぶす。
意味のわからないフランス語が通り過ぎるのを聞いてボーっとしていると、だだっぴろくて無機質なこの空港の中で、自分たちがいちばん孤独な親子のような気がしてくる。
あとはここで搭乗時刻が来るのを待つだけだから、ぐっすり寝てくれもかまわないのに、息子もどこか不安げな表情をしたまま、隣に座ってはまた去っていく異国人たちをみつめている。
一面ガラス張りの窓を見上げていくと、天井の梁に、どこから迷い込んだか、つがいの鳩がとまっている。出口を探すことすら諦めているかのようにじっとしている二羽の鳩。まるで、自分たちの姿を見ているみたいだ。

どれくらいたっただろうか。突然、耳にイタリア語が飛び込んできた。
見渡せば、同じ飛行機に乗ると思しきイタリア人たちが、三々五々集まっている。
ああ、やっと、待ちわびた搭乗時間がやってきた。
睡魔と疲労が入り混じるカラダに最後のムチを打って、息子の手を取りゆっくりと列の最後に付く。

ローマやミラノに行く便と違って、利用客もそんなに多くない便である。当然、飛行機までは、またもやバスだ。
しかし、さっき、日本から到着した際に乗った、日本人とフランス人でごったがえしていたバスとは明らかに空気が違うのはなぜだろう。
私たちが、すでに満員のバスに乗った瞬間、あちらこちらの人たちがいっせいに席を立つ。
「ここ、座ったら?」「こっちも空いてるわよ」
ああ、ここはもう、イタリアだ!

譲ってもらった席に二人で座る。向かい合わせに座ったイタリア人の若いカップルが息子を見てニコニコ笑う。応えるように、息子もエヘヘと肩をすくめる。
久しぶりの笑顔だ。
8時半をすぎてようやく夕焼けに染まり始めた空の下、小さな飛行機に乗り込む。
自分たちの席をめざして通路を進むと、両脇の乗客たちが口々に
「チャオ、チャオ」と息子に話しかけたり、
「グアールダ(見てごらん)!髪の毛がまっすぐだよ」とささやいたり。
どいつも、こいつも、根っからの子供好き。
ああ、ここはもう、パリなんかじゃないぞ!

いつも感じることだけど、こうして
イタリアの地方都市行きの小さな飛行機に乗り換えた瞬間に、とてつもない安堵感を覚えるのはなぜなんだろう。
日本人もひとりもいない、日本語が話せる乗務員だってひとりもいない。
それでも、なんだか自分たちの居場所がちゃんと用意されているような、ああ、イタリアに帰ってきたんだ、と思えるような、そんな空気にやっと出会える瞬間なのだ。

三人がけのシートの真ん中に息子を座らせ、自分は通路側に座る。どっしりとシートに腰をおろしシートベルトをはめた瞬間、自覚するのを避けていた疲れが、どどーっと一気に吹き出してくる一方で、すーっと緊張の糸がほどけていくのがわかる。ああ、本当に長い道のりだった。
と同時に、突然、客室乗務員のお姉さんが、枕を3つかかえて走ってきた。ふと横を見ると、息子が、隣のおじさんに覆いかぶさんばかりに真横につぶれて寝入っているではないか。
離陸時の安全を期し、枕を挟んで体制をまっすぐに整えて欲しいというのだ。
しかし、いつの間に寝ちゃったのだろう。座った瞬間に眠りに落ちたとしか思えない。
考えてみたら、日本時間でいえば午前3時半。ここまで起きていた方が不自然なくらいだ。
きっと彼も、この飛行機に乗って初めて、心から、ほっとできたのに違いない。
私が、そーっと息子の頭を抱き起こすと、隣のおじさんが、アームレストとの間にすばやく枕をつめこんでくれる。
20070604125111.jpg


背後から、前方から、そして斜めから
「あら寝ちゃったの?」「そうそう、寝ちゃった、寝ちゃった」
「あら起きちゃった?」「いや、だいじょうぶ、寝てる、寝てる」
そんなささやき声が聞こえてくる。

トリノに着陸しても、一向に眠りから覚める気配がない。
一斉にシートベルトをはずす音がしたあと、
再び、背後から、前方から、そして斜めから彼の様子を伺う気配がするとともに、
「起こしたら気の毒だ」
「荷物持ちましょうか?」
「いや、僕が抱っこしよう」
いっせいに救いの声がかかる。
いまどき、日本を旅したって、こうはいかない。思わず涙が出そうになる。

結局、隣のおじさんの手を借りて、ターミナルへ。急遽増えてしまった、米俵より重いこの手荷物は、到着ロビーから先は、居候先のカステッロの女主人リゼッタがよこしてくれた車の運転手さんの手を借りて、そしてカステッロに到着してからはリゼッタが離れの部屋まで抱っこしてくれて、日本時間の午前6時にしてようやく「ベッド」までたどりつく。
こうして、彼が寝ている間、いろんな人の腕を「乗り継ぎ」したというのに、そういや、保育園で描いた例の絵から抜けている。家に持ち帰ったら、さっそく一緒に書き足すべし。

しかし、息子のことばかり言っていられない。
自分だって、往路の話だけで、こんなに費やしてしまったではないか。
肝心の中身の話も、日々の会社員生活に美しい旅の記憶を抹殺されないうちに、書き残しておかなくては。

というわけで、遅ればせながら、2007春のイタリア報告、
日々のブログネタはしばしお休みして、次回からぼちぼちupしたいと思います。

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コメント

tsu

こ、この絵は・・・。
もしかして私のせいではないでしょうか。
ひえ~。ごめんなさい!!

ritz

とんでもない
何をおっしゃいますかtsuさま。おかげで、すっかり乗り物の絵が得意になりました。
あの個人レッスン、親の私もためになりました!
非公開コメント

ritz

広告代理店コピーライター
イタリア家庭料理研究家
HP→http://www.ristorante-ritz.com
著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
イタリア料理、子育てから、オペラ、日本の旅、秘湯まで。

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