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毎日が最後の晩餐、状態

2010_11_6
10月後半から、分娩する大病院に転院。今まで、10分と待たされない近所の個人クリニックに通院していた身にとって、大勢の妊婦でごったがえす病院に数時間も拘束されるのは超ストレス。
“ただの妊婦健診”が一日シゴトだよ、まったく…なあんて文句言っていたら罰があたったのか、昨日の検診でも、ずっと高めの血圧がなかなか下がらなくて、1週間と間をあけずに週明け早々に強制的に次回の診察を入れられてしまう。挙句、場合によっては来週入院かも、と脅された。
いつもは診察予約を入れようにも入れられなくて、曜日も時間も選べないというのに、いわゆる「特別枠」だ。超高齢妊婦には、病院もナーバスなのかな。

それにしても、病院では看護婦さんにお決まりのように「塩分の取りすぎには気を付けてくださいね」と言われるのだけど、ほんとに塩分だけが原因だろうか。
実際、この夏にイタリアに行った際、Mに「ママ、イタリア来てから、塩分も糖分もまるで気にしてないでしょ?」と指摘されるくらい、なにも気にせず、あきらかに和食よりも「塩」を使用するイタリア料理を昼に晩にと、ひたすら食べまくっていた。にもかかわらず、帰国してからというもの、一か月くらいは自分でも信じがたいほど低い数値が続いたのだ。
もしかしたら、精神的なものが大きいのではなかろうか。好きなことばかりしていれば血圧も下がるとか。食生活からいうと、実はオリーブオイルが血圧にはいいのかもしれない。
最近の生活に、いかにイタリアが欠如しているかということなのだろう。

とにもかくにも、さすがの私も今度こそホントのホントに重い腰あげて入院準備に着手。最低限の荷物をまとめる。昨日の内診では、赤ちゃんの頭もだいぶ下にさがってきているというから、いつなんどき自然に陣痛が来てもおかしくない時期に突入してしまったわけだ。
ああ、家族3人で気楽にフラフラできる休日も、今週末が最後かな。いや今日、土曜日が最後になったっておかしくない。そう考えると、こりゃもう「毎日が最後の晩餐」だ。

よし、足りない“イタリア”を少しでも体内に補って、血圧の低下を試みなくては。
なんて言い訳をしつつ、今夜は「オステリア・イル・グッフォ」へ。
ここも、おつきあいこそ浅いものの、先日の鶏料理の店同様、生まれちゃう前に一言挨拶しておきたかった店でもある。
シェフのケンさんは、ユミキーナ姉のペルージャ留学時代の友達とか。
「へー、シェフの修行してるんだ。じゃ、何か作って」と知り合ったその日にアパートにユミキーナ姉が押しかけてきたというのは、今でも仲間内では有名な話。
シェフのケンさんは、歳はおそらく私と同じ世代と想像するけれど、そんな図々しいユミキーナ姉に文句ひとついわず料理を作ってあげたんだろうな、と想像してしまうような、言葉数が少なく朴訥とした人柄。ホールを任せているのは彼とは真逆に明るい接客が気持ちいいスキンヘッドのお兄さんだが、8年前のオープン当初から片腕として頑張っている彼にお客さんの対応はすべてまかせ、いつも厨房の奥で黙々と淡々と食材たちと向かい合っているのがケンさんだ。
私のようなサラリーマンの片手間に料理教室をしているような者が、こんなことをいうのはおこがましいのを百も承知だが、なんというか、「同じにおい」がするのだ。
日本で、そしてイタリアで何年も修行を積み、若くして店を開いてから10年近くも頑張っているケンさん。同じようなシェフは日本のいたるところにいるかもしれない。けれど、ローマのトラットリアで働く中で学んだこと、料理のいろはを教えてくれたイタリア人たち、あるいは下宿先のマンマへの思い…、彼がイタリアの修行生活の中で見たこと感じたことすべてを料理という形で恩返しすることが彼の料理の原点であり、その原点が今でも 
微塵としてぶれていない、とでもいえばいいだろうか。そんな話を彼と直接したことは一度もないのだけど、そう確信する。
多くのシェフたちが、商売っ気や世間の風評などに左右されながら、本来持っていたはずの志の形をどんどん湾曲させていってしまう中で、彼のそれは、きっと「イタリア」というものを目指して以来、一度もぶれたことがないのではないかと思う。
だから、女っ気もなく、お世辞にもおしゃれとはいえない店だけど、私にとっては「イタリア」に帰ってきたような居心地の良さがある。

おこがましいついでに、もう一つ言ってしまおう。
ケンさんの原点が変わることなく生き続けているのに反して、行くたびにすばらしく進化を遂げているのが料理だ。石川県にあるご実家の畑から毎日届く豊富な季節野菜や、お父さん自らが狩ってくるジビエなど、申し分ない食材たちに決して甘えることなく努力を惜しまない。
今夜いただいたお料理、まずは前菜の「白魚の鉄板焼き」を家族3人で争って食べる。いわゆるフリッタータ(イタリア風たまごやき)のようなものだが、白魚の塩っけがきゅっと効いていて後を引く。
パスタの一品目は「ズワイガニとトマトのトロフィエ」。くるくるっと丸まったショートパスタに濃厚なズワイガニのお出しとケッパーがからみついて、さっぱりした中に充足感たっぷり。もうひとつの「軍鶏とキノコのパッパルデッレ」も秀逸。石川のご実家から直送される、さまざまな珍しいたっくさんのキノコと軍鶏が相まったトロリとしたソースで、手打ちの太麺パッパルデッレもするすると御蕎麦のように胃袋に入っていく。
とどめはメインの鹿と魚。息子のMが、当初から「シカ、シカ、シカ食べたい!」と大騒ぎしてオーダーした「鹿」はケンさんのお父さんが仕留めたもの。メニューではゴルゴンゾーラソースだったけど、ブルーチーズが苦手なMのために特別に赤ワインソースで仕上げてくれた。
大人二人が感動したのは、「鯛のカルトッチョ(包み焼)」。素揚げしてから仕込んだと思われる鯛の半身の上には、これまた特大の牡蠣。数えきれない種類のキノコがたっぷりと入ったソースはクリーミーに白濁していて、まさに海のミルクの味がする。うう、うまあい。
飾りっ気のない素朴な料理ながら、地に足のついた骨太料理の数々をしっかりと味わったあと、これで十分と思いつつ、ボードに書かれたドルチェ「栗とマスカルポーネのズコッと」が気になって思わず頼んでしまう。
とはいえ、おしゃれなケーキ屋でもフルーツパーラーでもないこの店で、いくら季節の栗ドルチェといったところで、そんなにすごいものは出てこないだろう…
と思った私がアホでした。す、すばらしい!
パン・ディ・スパンニャといわれるオーソドックスなスポンジで、生クリームやリコッタなどのクリームを包み込むイタリアの伝統ケーキなのだけど、通常は、こってりしすぎていて私はあまり好きではない。ところがケンさんのズコットはスポンジも極めてうすーく、クリームが主体。そのクリームとて、あくまでも甘さ控えめのさっぱり、あっさりのマスカルポーネ味。しかも、このクリームの中に、細かく砕かれたホクホク栗が、ゴロゴロわんさか入っているのだから、これはもうたまらない。
夫と息子から再三のびるフォークの手を振り払いながら、まるで朝のヨーグルトでも食べるように一気に平らげてしまう。この栗も、既製品ではなく石川から届いたものとか。下ごしらえから考えたら、どれだけ時間がかかるだろう。栗好きには、その手間が痛いほどよく理解できる。
巷のどんな高級洋菓子店の、どんな有名なモンブランより、「そうそう、こういうのを栗のドルチェというのよ!」と思わせてくれたズコット。テイクアウトとかで、売ってほしいくらいだ。

私の好きな、“飾りっ気のない素顔のイタリア料理”をたっぷりと血中に取り込んだ一夜。
血圧も下がってくれようがくれまいが、もはやどうでもいい。これで悔いなく入院できる。心底そう思えた幸せな晩餐であった。
あーっ、料理の写真を一枚も撮っていなかった。あまりに美味しいものに限ってそういうものだ。仕方ないので店のHPからピックアップした店頭写真を冒頭に。
野郎所帯の商売っ気のない店だけに、週末は特にお客さんが少ないのがファンとしてはとっても心配…、みなさん、どうか行ってみてください。
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コメント

yumichina

scampi
うん、うん、忘れもしない1997年4月のできごと。ケンさんとペルージャのメルカートに行ってスカンピ買ってパスタを作ってもらったなり~。思えば私の初トリノ旅行もケンさんファミリーと一緒でした。。。あのときからお世話になってます。
ではリッツ先生の無事のご出産心よりお祈りしてます♪

ritz

yumichina姉さん、買い出しするところからケンさん引きづり回してたんすかあ?さすがです。
ああ、出産までカウンドダウン。病院でお目にかかれるのを励みに、頑張ります。

stella

秒読みに入ってきましたね。。。
なんだかとってもソワソワしちゃいます!
頑張ってくださいね!祈っています、多分同じさそり座として!

最近は産休のお陰で、ブログの更新が多くてとても楽しいです。
ritzさんの織り成す文面はたくさんの人を惹きつけているようですよ。

この渋谷のお店、いつか行ってみたいと思います。
渋谷に良く行くんですが、これと言ったお店がなくて・・・
ritzさんの愛するお店なら間違いないですね。

ritz

stellaさま
いやあ本当に秒読み。でもまったく自覚なし。
子供の産み方、もう忘れてしまいました。大丈夫なのか?

東京に里帰りの際はご一報ください。
またお目にかかれる日を楽しみにしてます。

tsu

こちらもスタンバイOK!ご主人からの産まれましたメールの受信待ちで~す。
↑のレストラン、N家から近いので早速メールを送ってみたらやっぱり何回か行ったことがあるそうです。美味しかったと言ってました。次回帰国時は皆で食事に行きましょう。賑やかな食事になりそうですね。
無事のご出産をC家一同心よりお祈りしています。

ritz

tsuさま
ありがとうございます。夫からの報告、待っていてください!
tsuさんのときのことも思い出すな。クリから電話を頂戴した時のこと。

↑このお店、もとは喫茶店でした、みたいな、ほんと、内装もそっけないというか、凝ってないというか、
まあ、つまるところ欲がないんでしょうな…。
でもパンもすべて手作りで、知れば知るほど好きになるような、そんなお店とスタッフです。
みんなで行ける日を楽しみにしてます。
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ritz

広告代理店コピーライター
イタリア家庭料理研究家
HP→http://www.ristorante-ritz.com
著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
イタリア料理、子育てから、オペラ、日本の旅、秘湯まで。

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Author:ritz
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