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イタ馬鹿日誌

昼は会社員、夜は母、週末は自宅で料理教室。ristorante-ritz.comのイタリア馬鹿な日々。

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初心に戻って、いってまいります。

芳宣さん器

 旅立ちの前は本当にせわしない。
今回最初に降り立つ地は、北イタリア、フランスと国境を接するピエモンテ州。息子と居候することになっているカステッロ(城)は、そんなピエモンテ州の中でも赤ワインの王者、バローロやバルバレスコの産地で名高いランゲ丘陵に位置している。カステッロ(城)というくらいだから、当然、丘のてっぺんにあるわけで、朝晩はかなり冷え込む。春に訪れたことはないので念のため確認すると、暖かくはなってきたけど、昨日は最高気温でもたったの10度だったとか。まだまだ油断できないらしい。
 息子のウインドブレーカー(古い呼び方か?)が、そういえばツンツルテンだったことに気づき、急遽、子供の防寒服探しに奔走する週末となってしまった。

 いろんなデパートをハシゴしても、「これ!」というものが見つからない。お気に入りの店を片っ端から覗いたが、みんなすっかり夏物だ。結局、伊勢丹のGAPで、これといって特徴もない無難なジャンパーを購入。ま、帰国後は通園服にしてしまえばいいし、迷う値段じゃない。しかし、GAPなら、何もわざわざ伊勢丹まで来なくたってよかったのに…。せわしない時に限って、無駄に時間を使ってしまうことを、つくづくもどかしく思いながらエスカレータを下りていく。子供服売場の下は、食器売場…。せっかく来たのだから、和食器でも見ていくか。
 伊勢丹の和食器は、都内のデパートの中でもかなり充実している方だと思う。実は、自分たちの結婚式の引き出物も、ホテルで契約している商品ではなく、ここの売場で作家物の器をオーダーした。それくらい、夫婦ともに結構好きな空間なので、ここへ来るといつも、おのずとそれぞれ別行動になってしまう。今日も、夫は子供の手を引いて、私と別方向に歩いていった…はずだったのに、なぜか小走りに私のもとへ引き返してきた。
「い、いる! ねえねえ、やってるよ。いるよ」
 やってるよ、いるよ、と言われてもなんのことだかさっぱりわからんので、仕方なく後をついていくと…
 あ!ほんとだ!やってる、やってるし、いるではないか、本人も!

 高橋芳宣(ホウセン)さんの作陶展である。そして、芳宣さんも、いる。
 何を隠そう、私たちの結婚式の引き出物を、90客の小鉢を、せっせと作ってくれたご本人である。
 展示場の片隅で人目をしのぶように、こそこそと携帯メールをしている、例によって、とてもじゃないけど作家風情に見えない芳宣さんにそっと歩みよって声をかける。
「ホウセンさん…」
「やー!こんにちは。元気でしたか?」
 引き出物をお願いした当時は、もちろん伊勢丹を通じての発注だったこともあり、ホウセンさんと知り合える由もなかった私たちだが、結婚後数年たってから、たまたま旅の途中に群馬の彼の工房を訪ねた際のこと。奥様ともども「あー、あのときの!」とすぐに思い出してくださり3時間も長居してしまったほど持てなしてくださった。きっと、それほど印象に残るほどのご足労を当時おかけしたのだと思うが、以来、長いおつきあいが続いている。もともと、柿傳角筈窯で茶懐石から器の世界を学ばれたこともあって、私の母もホウセンさんの大ファン。彼が都内で個展を開くたびに家族でお邪魔しては、素朴ながら上品な絵付けの彼の器を集めている。
「いやー、息子さんもずいぶん大きくなったねー。わざわざ来てくれてありがとう」
「いえ、わざわざじゃなくって、あの、たまたま通りかかかったらホウセンさんがいたんです」
「あれ?案内状届いてなかった?僕、出したはずだけど」
 届いてたかも、、、。ここのところ、えらくばたばたしてて、不覚にも見過ごしていたかもしれない。
「そうそう、いつかハガキにも書いたと思うけど、去年、イタリアへ行ってね。初めてだったから、行く前にあなたの本を読み返して行ったんですよ」
 そうだった、前回、柿傳ギャラリーの案内ハガキに書いてくださったその話についても、詳しくお聞ききしたいと思っていたのだった。なのに前回の個展は、最終日に足を運んだら、すでに閉館していたという失態を犯していたのだった。
「実は、うちの工房がある甘楽町が、イタリアの田舎の町と姉妹都市になってね。文化交流の一環で、そこで、個展をやってきたんです」
「え?どこの町ですか」
「いやー、小さな町だから絶対知らないと思うんだけど、チェルタルドっていう…」
 えーっ。知ってますよ。知ってる知ってる、チェルタルド!

 知ってるどころか、私にとっては忘れてはならない場所のひとつ。私に料理留学を決心させた土地がモデナのカステル・フランコであるならば、私をそもそもイタリア料理好きにしてしまった土地が、このチェルタルドというトスカーナの小さな小さな町なのだ。
 あれは、社会人になって間もない十数年前、女友達と、当時大流行した「プロヴァンス」の旅に出かけたときだったと思う。南フランスも確かに良かった。素朴で、のんびりしてて、食べるものも安くておいしくて…。しかし、その帰りに「せっかくだからイタリアもいっとく?」くらいの気持ちで立ち寄ったイタリアの、それはそれは居心地のいいことといったら、そして何より料理のおいしいことといったら、プロヴァンスで費やした時間を取り戻してこっちに当てたいくらいの気持ちになった。そして、さらに小さくてディープな田舎の町を訪れたくなった私たちは、フィレンツェから電車で小一時間くらい走ったある町にたどり着く。それがチェルタルドだった。
 町といっても、城壁に囲まれた町の端から端まで、走ったとしても20秒くらいしかかからないくらい、本当に小さな町。デカメロンのボッカッチオの家があることが唯一の売りで、よろずやが一件しか見当たらない。町の端っこにの丘を見下ろすような場所に、やっと、木賃宿つきのトラットリアを見つけた頃には、強い西陽が大きく傾いていた。
 当然、ここで夕食を食べるしかない。と、半ば後ろ向きなキモチでテーブルについた自分を、最初のひとくちめから、大きく反省した。う、、、うまい。うますぎる。なんなんだ、このコシのある手うちパスタは。なんなんだ、このラグーは。なんなんだ、この柔らかいロースとは、そしてこのソースは…。と、なんなんだ尽くし。つい前日、うまいうまいと食べていたフィレンツェのレストランでの料理が、早くもうすっぺらく思えてくるほど、重厚にして奥の深い一皿一皿を、思いがけなく堪能した私は、以来、イタリアの「田舎」料理のとりこになる。
 そういう意味で、チェルタルドは、のちの私が料理留学を決意する、いちばん最初の布石を打たれた町といっても嘘ではない。
 10年前の新婚旅行でイタリアを訪れた際も、真っ先に夫をこの店に案内した。イタリア馬鹿に夫を巻き込むことになる最初の第一歩も、この町だったのだ。

 そのチェルタルドで、私たち夫婦の引き出物をお願いした陶芸作家のホウセンさんが、彼独特の色使いと温かい手触りの器たちを披露したことを知ると、ただの偶然とはいえ、勝手ながら、ご縁を感じずにいられない。
 と同時に、久々のイタリア行きを前にして、自分の原点に、ふと立ち返ったような気もする。イタ馬鹿としての自分の出発点、こんなイタ馬鹿女房に期せずしてつきあわされることになったわが夫との出発点。いろんな意味で初心を思い出さずにいられない。
「わざわざ来なくても済んだのに」とぼやいていた伊勢丹だったけど、前言撤回、来てよかった。ホウセンさんに出会えたことに、ただただ感謝である。

 家に帰って、ホウセンさんに作ってもらった引き出物の器を10年ぶりに押入れの奥から出してみた。結婚式の記念にと、自分たち用にも購入しておいたものだ。
 結婚して10年。この10年間で私がイタリア馬鹿になっていく様を、奇しくもイタリアンカラーだったこの器は、押入れの奥でひそかに予想しながら見守っていたのだろうか。
 家族や周囲に感謝して、10年間元気にやってこれたことに感謝して、“初心を忘れずに”行って来いよ。そんな風に私に語りかけているような気がしてくる。
 イタリアから帰ってきたら、今回の旅の収穫をこの小鉢に盛って、乾杯しようと決めた。

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コメント

いってらっしゃ~い

ritsさん、おはようございます。
縁って本当に不思議ですよね。偶然のようであって、でもそうではないとこの頃感じてるんです。「素晴らしい人々との出会い」によって今の自分があるんじゃないかなって。
イタリアからのステキなものたくさん、たくさん待ってまーす。
いってらっしゃーい!

lucaさんへ

うれしいコメントありがとうございます。そうですよね、いろんな出会いに支えられて今の自分があることに感謝しつつ、私も誰かを支えている存在になれるよう頑張りつつ、行ってまいりまーす。

お待ちしてます!

来伊のご連絡をいただいたのはついこの間のことと思っていたのに、もう出発なのですね。
今回もRitzさんにとって収穫の多い旅となりますように。
カペッリ家一同、ボローニャで首を長~くして到着をお待ちしています。
Buon viaggio!

tsuさま

ありがとうございます。なんだか本当にこんな状態で出発できるのか?!って感じですけど、なんとかがんばります。ご無事のご出産お祈りしつつ、ボローニャで母子ともに元気なお姿を拝見できるのを楽しみにしております。カペッリ家のみなさまにもくれぐれもよろしく!
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ritz

Author:ritz
イタリア家庭料理研究家
本業は広告代理店コピーライター
1999年以来、毎年有給休暇を使い果たす作戦でイタリアへ料理修行。年に1〜2回のペースで子連れでイタリアの農家やマンマの家々を転々としています。
HP→http://www.ristorante-ritz.com
Facebook"マンマの台所Ristorante Ritz"→https://www.facebook.com/ristoranteritz/

著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
U.M.A.O.オリーブオイル鑑定士
イタリア料理、子育てから、日本の旅、秘湯まで。

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