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イタ馬鹿日誌

昼は会社員、夜は母、週末は自宅で料理教室。ristorante-ritz.comのイタリア馬鹿な日々。

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フリマが教えてくれたこと

フリマM&M(1)

 ウチは、都内城南地区の、某不動尊から続く商店街のど真ん中に位置している。なんの商売もしていない代々サラリーマンの家系なのに、なぜだか父の祖父の代から住んでるらしい。
 この年にして恥ずかしい話だが、この親の持ち家から離れた経験は、古い一軒家だった家を今のアパートに建て直す間に仮住まいしていた1年半と、結婚後の2年間の、二回しかない。どうせ家賃を払うなら、他人に払うより親に払って、莫大なローン返済の手伝いをした方がいいと思って、8年前にここへ舞い戻って来た。
 子供の頃は、この商店街もずいぶん賑やかだった。魚屋、八百屋、肉屋、乾物屋、酒屋、染物屋、用品屋、蕎麦屋…、いろんな店が毎夕、買い物カゴを下げた主婦でごった返していた光景は今でも忘れられない。私と姉は、ちょっと離れた学校に電車で通っていたけど、学校こそ違えど、商店街の子供たちとはよく遊んだ。学校から帰ってたまたま母が留守で家に入れないと、近所の店のおばさんが店の奥に入れてくれて、おやつをもらいながら母の帰りを待ったものだ。
 でも、小学校、中学校とあがっていくと、少しずつ付き合いも薄れる。商店街の様相も時代とともに変わっていった。老朽化した長屋をマンションにするために、大家の蕎麦屋が小さな商店主たちを追っ払う。仲良しだった染物屋のひろちゃんも、その隣のゆうこちゃんも引っ越していった。私や姉も成人になり、いつしか商店街の人たちと挨拶を交わす機会もなくなっていった。
 商店街のみんなから可愛がられていた知恵遅れの八百屋の三男坊が死に、街の長老だったその親父さんも後を追うようにしてなくなる。世代交代が始まり、私や姉と同級生だった子たちが店のあとを取るようになると、みな先を争ってビルにする。昭和の街の風景がどんどん消えていった。かくいうウチも、周囲をビルに囲まれてしまったがゆえに「私はこんんな洗濯も乾かない日陰の家で死ぬのはイヤ!」という母の涙の訴えで、当時すでに60半ばの父が大借金をし、アパートを建てる羽目になったのだ。
 さて、風景だけではない。大型スーパーが駅前に進出すると、人の流れもすっかり変わってしまった。住民はみんな駅前へ流れる。商店街からはもはやすっかり人が消え、毎月28日のお不動様の縁日でさえも、昔ほどの賑わいは見せなくなってしまって久しい。

 とはいえ、ウチは店をやっているわけではないから、特に生活に支障もないまま、地域のこうした40年間近くを傍観してきたわけなのだが、そんな私にも子供が生まれ、まっとうな生活を送るようになると、自ずと地域のコミュニティーに、少なからずも再び触れるようになる。子供を連れて近所の病院に行ったり、夕餉の材料を買いに乾物屋や肉屋に顔を出すたびに、当時、私のことを「Rちゃん」と呼んでくれてた商店街のおじさんやおばさんたちが、今は「Mちゃん」と私の息子の名を呼び、手をふってくれる。
 そのおじさんやおばさんの、なんと老けたことだろう。いや、なんと寂しげなことだろう。彼らの、昔のいきいきとした姿が記憶の隅にあるだけに、生まれ育った商店街が廃れていくことを思うと、急に切なくなってきた。

 そんな中、ひとりの男が立ち上がった。うちの隣の「肉屋の〝おにいさん″」である。〝おにいさん″といっても、結婚もしてるし、というか娘・息子も生まれ、彼らにもとっくに子供が生まれているわけだから、今ではすっかり「肉屋の〝おじいさん″」なんだけど(相変わらず〝おにいさん″と言ってる自分がおそろしい)、見た目も当時とすっかりかわらない50代の彼は、今や商店街の改革の志士として、いろんなアクションを起こし始めている。
 その一つが、年に二回のフリーマーケット。商店が休みの日曜、地域の希望者が店のシャッターの前に出店できる。じゃんけん大会や飲み物サービスなんかも合わせて開催する。
 正直、たいしたイベントではないのだけど、ウチの場合、自宅の前に並べらばいいわけでとにかく気軽に参加できるので、今年も、去年に引き続き参加してしまった。

 他の出店者より大きく遅れをとって、のこのこピクニックシートを敷き始めたのがすでに昼どき。夫が、私の母の古着を吊るしたハンガーラックをがらがら引っ張り出してきた瞬間に、早くもお客さん第一号に声をかけられている。
「ねね、ちょっと、お宅、Y中さん?」
 巨大な体格のおばさんにどすの利いた声で話しかけられた夫は、びくびくと助けを求めるように私のほうを振り向く。
あ、N澤さんのおばさんだ。ウチの前の路地を入っていった突き当たりに住んでいる。
「あ、どうも、こんにちは」
「ああ、やっぱりそうだ。Y中さんだ。私、楽しみにしてたのよー」
前回も、このおばさんが母の古着をはじめ、いろいろ買ってくれた。うちの上顧客だ。
通りがかりのおばさんが、つられて次々に足を止める。
「ここんちのママが着た服だから、奥さん、間違いないわよ」
宣伝までしてくれて、気がつくと人だかりだ。
「唯一残念なのはね、あんたのママ細いからさ、ボタンがとまんないのよ。ほらね」
うちの母も太ってる方だが、N澤さんのおばさんは二倍以上はある。自分の杖をハンガーラックにひょいとかけて、片っ端から試着。結果、ボタンをとめなくても様になる刺繍のチョッキをお買い上げ。
「あら、これもいいじゃない?こういうの欲しかったのよ。ほら、両手があくからさ、便利でしょ」
と、今回の目玉商品のはずだった、未使用のパタゴニアのウエストポーチも買われてしまった。
「お金持ちが出すフリーマーケットだもん、いい物に決まってるわよ」
「とんでもないですよ、おばさん。ウチなんか、このアパートのせいで大借金ですよー(←かなりマジ)」
「なーに言ってるのよ。今度も楽しみにしてるからね。またお店出してよ」
「はーい。いつも、どうもすみません。お気をつけて~」
私も結構やっていけるかもしれない。
フリマM&M&K(2)

 中一の甥っ子と、4歳の息子も参加して売り場も活気を帯びてきた。
「いらっちゃいませー。いらっちゃいませー。安いですよおー」
子供の呼び込みに、みんなお情けで足をとめてくれる。さながらジプシー親子の気分だ。
甥っ子に至っては、なかなか商売のセンスがあるようで、孫の手を引くおばあちゃんを見つけるなりさっそく呼び込み。
「おもちゃ、いらない?ぼく、ほら、みてごらん」
子供を手なずける汚い戦法だが、見事にひっかかる。おまけに、当初つけた値段から値引き額を書き込む作戦で、そのおばあちゃんには自分がはいた靴まで売りつけた。
「よーし、どんどん値下げするぞ」
「ボクも値段書きたい。マジック貸してーっ」
子供二人にとっては完全に遊び場になっている。
 「こんなのもあるけど、売れるかしら?」
母が自分の部屋から不要な服をどんどん持ってくる。こっちは自分が出品したピアスやネックレスの値段付けも終わっていないというのに、売り物の陳列に大忙しだ。
 
 …と、背後から
「このピアス、いいわねー。安い!これちょうだい。はい、20円」
という声が。
えっ!? 20円!? 
 ふと見ると、私が値段をつけそびれていたピアスの横に、息子が書いたとおぼしき、かろうじて読める字で「20Y」(←なぜかYが右)と書いてあるではないか。
ああ、やられた。いまさら訂正できるわけもなく、悲しいかな、フランス製のお花のピアスは、20円とひきかえに巣立っていってしまった。

 「あらあら、シェイ(精)がジェル(出る)ねえ」
 キャスターつきショッピングバッグを押しながら、腰の曲がった老婆が近寄ってきた。
顔もしわくちゃで、何を言ってるかよく聞き取れないが、絵本から出てきた魔女みたい。
「がんばってねー。あたしゃ、買わないけど」
とかいって去っていったが、
「あの人、じーじの知り合いだよ」と甥っ子に教わる始末。ふーん、こんなおばあちゃんもいるんだ。

 さて、終わってみれば、売上げはたったの数千円。それでも、たった半日、家の前に立っていただけで、自分が何十年も住んでいるはずのこの土地なのに、生まれてはじめての出会いや発見がたくさんあったような気がしてならない。
 地域に暮らすこと。それって、つまりは地域と生きること。そんな当たり前のことをつくづく考えさせられた。
 ただのサラリーマンだからと、商店街の歴史を人ごとのように傍観してきた私も、もしかしたら商店街をダメにした1人だったのかもしれない。
 よし。これから毎回、家族で商店街のフリーマーケットに参加するぞ!めざせ、地域復興!

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ritz

Author:ritz
イタリア家庭料理研究家
本業は広告代理店コピーライター
1999年以来、毎年有給休暇を使い果たす作戦でイタリアへ料理修行。年に1〜2回のペースで子連れでイタリアの農家やマンマの家々を転々としています。
HP→http://www.ristorante-ritz.com
Facebook"マンマの台所Ristorante Ritz"→https://www.facebook.com/ristoranteritz/

著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
U.M.A.O.オリーブオイル鑑定士
イタリア料理、子育てから、日本の旅、秘湯まで。

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