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スキー温泉

09_1_22Onsen
 ボーゲンもターンもできないくせに、最近、もっぱらスキー好いている息子。
 ならばいっそ、会社の先輩の息子さんが行っている菅平にあるスキースクールの合宿に、うちのも、対象年齢の小学生に達する来年から入れてみようかと思い始める。
 それに先立ち、試しに、幼児からでもみてくれる現地のプライベートレッスンを小一時間程度受けさせてみようかということに。
 よって、今回の温泉は秘湯でもなんでもなく、「菅平に近いこと」が条件。温泉好きの美学に反する ようで若干不本意だが、息子のためにはそんな邪道な温泉探しもよしとしよう。
 この近辺、別所温泉など有名どころはあるけれど、今回は聞いたこともない温泉に行ってみることに。

 鹿沢温泉と書いて「カザワ温泉」と読む。浅間山の裏の方といえばいいだろうか。眺めのいい裾野の、なあんにもない平地の一角に、突然小さな温泉街が現れる。軽井沢方面から見慣れているいつもの浅間山も、違う角度から見上げるとまるで別の山のよう。澄み切った冬の夕方の空に、浅間山がゆっくりと吐き出す白い煙が美しく映えている。

 「鹿鳴館」
 鹿沢温泉にあるから鹿鳴館。なんとわかりやすいネーミング。
 宿泊客は、たったの二組だけ。しかも、もう一組は「歓迎、榛名スキークラブ」と書いてはあったものの、男3人だけのグループ。つまり女湯は私と息子が独占できるはずだった。それなのに、風呂の洗い場がすべてふさがってしまうほどお風呂が満杯なのはなぜ?!
 脱衣場に散らかる大きなバッグなど見るにつけ、どうやらスキーの帰りと思しき立ち寄り湯の客で溢れかえっているようだ。
 せめて5時過ぎたら、立ち寄り湯はお断りにしてもらいたいものだと宿泊客としては思ってしまうけれど、空いた頃を見計らって入ってみた風呂は、空間もお湯も、確かに気持ちがいい。スキーのあとに、こんなところで身体をほぐして帰れたなら、その後の長距離運転もさぞかし気分が違うだろう。
 内湯は、かけながしの湯で溢れる浴槽と、ろ過式で加熱してある浴槽の二つ。温度の微妙な差を試しながら浴槽を行ったり来たりするのも心地よい。露天も、清潔感があって悪くない。
 浸かっているときは、やや物足りないほどぬるい湯だけど、風呂から上がって部屋に戻ってから、じわじわと身体が芯から温まってくるのも不思議。

 がらーんとした食堂の片隅にある座敷で、ついたて隔てて二組だけの夕食。
 豪勢なものが出るわけではないけど、天ぷらがとってもサクっと揚がっていたり、八寸などにありがちなどうでもいいアナゴの寒天寄せなどが何故だか妙に旨い。大人は固形燃料で一人ずつ卓上で炊き上げる釜飯なんだけど、子供食にはわざわざ御櫃に白いご飯を、しかも惜しみなく山盛りで用意してくれるあたりにも、ちょっとした感動を覚える。
 “これで”一泊1万2千円なら悪くないかも。そういえば年末に行った、栃木の山奥の秘湯の宿でも「“これで”1万2千円なら悪くないかも」と同じセリフを呟いたっけ。
 “これで”に含まれる意味は二つの宿では全く違うけれど、1万2千円という、一見、「まあ、ハズレてもいいや」の値段で、思いがけず気持ちよい発見がひとつでもあると、俄然、いい気分になるものだ。



 ついでに、今回のメイン目的であったスキーの話もを少々。
 いつもなら初日はわき目もふらず宿に直行するところ、あいにく翌日曜が雨の予報だったため、スキーをさせるなら今日のうちということで、菅平に寄っていく。
 息子のプライベートレッスンの担当になったのは、見た目は高校生といっても通用する明らかにバイトの兄ちゃん。長髪だし茶髪だしピアスだし、えー、いくらなんでも、同じレッスン料なのに、あれだけベテラン風の先生が揃ってるのに、なんでうちだけこのお兄ちゃんなわけ??と、当然、40過ぎの母は思うわけだ。
 しかし、指定された一時間後に集合場所に行ってみると、彼は前のコマも、初心者の幼児を数名相手に平地で、スキーもはかず、リフトにも乗れず、ひたすら身体を張って奮闘している。きっと、若いから、こんな幼児ばっかり押し付けられちゃうんだろうな、と、ちょっと不憫にもなってきた。
 親はちょっと遠めから見守りながら、息子の個人レッスンが始まる。
 「よーし、いいぞー、うまいぞー。じゃ、今度はお兄ちゃんの真似して、右足だけ履いて歩いてみよっか。よーし、その調子、Mちゃん、うまいなー」
 どうやら息子のことを女の子と勘違いしているふしもあるようだが、熱意が見てる方にも伝わってくる。そしてしばらくすると、こちらに向かって大声で
 「すんませーん、あの、リフト乗っていいすかね。ここで滑ってるだけでも飽きちゃうと思うんで」
 どーぞ、どーぞ。どこへでも連れてってください。
 「ボーダーとか居て危ないとこは、オレ、抱っこして滑っちゃいますから」
 君こそボーダーでもおかしくないでしょうっていう風情・年齢なのに、“ボーダー”ってコトバに若干嫌味を込めた発音あたりも、80年代スキーヤー上がりとしては、つい好感が持ててしまったりして。
 「よーし、じゃMちゃん、上いくぞっ。乗り場まで危ないからお兄ちゃん抱っこしてやっからな。はい、ばんざーい」
 息子を宙に引っ張り挙げると、兄ちゃんは疾風のようにすべり去り、リフト乗り場へ。
 ペアリフトの上からも、谷の向こうに消えるまで、私たちに延々と手を振り続けていた、いや、振り続けさせられていた息子。兄ちゃん、親への配慮も行き届いているじゃないか。

 さてこのコース、メインのゲレンデは中上級者向きで、初心者は林間コースを回って降りてくるため、息子と兄ちゃんの姿は、残念ながら下からは認識できない。
 そこで、林間コースの最後のカーブが望める地点まで上り、雪上で私と夫は30分、ただただ待ちわびる。最後はきっと時間切れとなり、抱きかかえられて降りてくるに違いない。と思ったものの…、
 き、きたーっ。
 なんと、一人で滑ってるではないか。
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 兄ちゃんは後ろ向きで息子と向かい合うように先導しながら、ゆっくりゆっくり滑ってくる息子が視界に入ったときはさすがにじ~んと来た。
ふと、隣の夫の顔を見てみると、目にうっすら涙がにじんでいたように見えたが、これは錯覚だろうか。…笑える。

 「お兄さんも大変ね」と言いそうになって慌てて「せ、せんせい、ありがとうございました。大変ですよね、こんな初心者の、しかも子供を…」と礼を述べると
 「全然っすよ、おれ、一度も抱っこしなかったっすよ。すごいっすよ。すぐ上手くなりますよ。また来てください。よろしくお願いしますっ」
 と逆に深々と頭を下げられてしまう。なんて気持ちのいい兄ちゃんなんだろう。
 この兄ちゃん、生徒からはケンケンというニックネーム呼ばれていること。
 私の会社の先輩の息子さんともすごく仲良しで、ダチであること。
 そして品川に住んでること…。
 そんな話をリフトの上で、あるいはレッスンを受けながら二人でしていたらしい。ずいぶん密な時間を兄ちゃんと過ごしたのだろう、ついさっきまで「パパとママと離れてスキー合宿なんて絶対いやだようぅう」と言っていたはずの息子が、自ら「ボク、こんどお泊りで、ここのスキー合宿来る!」と言い出した。
 えー、そうなのー?!やっぱ来なくていいよ。パパもママも淋しいよ。だって、たっとの30分でもあんなに待ちわびちゃったんだもの。合宿なんぞにやったら、それこそ淋しくて淋しくて夜も眠れないよおおお。
 …すっかり親の方が情けない。

 そして翌朝。予想は大きくはずれて、雨どころか大晴天。
 「今日も、昨日のお兄ちゃんに習いたいな~」という息子をなんとか説得し、近場のスキー場でガマンしてもらう。それでも、二日ともスキーするなんて、私たちにとっては大きな誤算、大きな譲歩だ。
 宿のすぐ近くの地元人しか行かないような小さなスキー場。ただでさえガラガラのところ、ちびっこゲレンデは貸切状態。網で囲まれているから安全性もばっちり。
 ゲレンデの上に私が立ち、下にいる夫めがけて、息子を解き放つ。下で夫が息子を受け止めると、板を脱がせて本人に背負わせ、私のところまで上らせる…というのを、何回、何十回、繰り返しただろう。気がつくと、息子は右、左、と交互にターンしながら滑り降りている。
 すごい、すばらしい。目を見張る上達ぶり。昨日の兄ちゃんのレッスンの成果に違いない。
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 今シーズンの間に、もう一回くらい来ておくかね。
 そしてまたあの兄ちゃんにプライベートレッスン頼むかね、ご指名で。






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ritz

広告代理店コピーライター
イタリア家庭料理研究家
HP→http://www.ristorante-ritz.com
著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
イタリア料理、子育てから、オペラ、日本の旅、秘湯まで。

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