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イタ馬鹿日誌

昼は会社員、夜は母、週末は自宅で料理教室。ristorante-ritz.comのイタリア馬鹿な日々。

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メリー・クリスマス in 桃花林

2008_12_28Xmas_1
 さかのぼって、クリスマスの話を少々。

 ここのホテルの、ここの料理が大好きで、ゆえにこのホテルで11年前に結婚式を挙げた。
 いくらなんでも、北京ダックくらいは金屏風の前に座っていても食べられるだろうと高をくくっていたが、それすらも口にできなかったことがいまだに悔やまれる。
 その名は、ホテルオークラの中華料理レストラン「桃花林」。
 だからというわけではないのだけど、最近は毎年、11月の息子の誕生日にジジババたちも誘って、年に一度の庶民の贅沢と称して細々と通っている。
 今年は秋にいろいろ立て込んでいたために、ついぞ足を運べずじまい。そこで、クリスマス・イブに、私の父と母も誘って繰り出すことにした。

 脳出血でもともと右半身に麻痺が残る身でありながら昨夏に股関節を骨折した父。最近では身の回りのことはなんでも自分でできるまで回復したものの、一人で外を出歩くことはいまだにできない。私たちがクルマで連れ出してやるこういう機会が、彼にとって唯一の外食のチャンスなのだ。
 「いやあ、今日はちょうど療養士のお兄さんが来た日でね。夜に備えて、散歩に連れてってもらったのよ。歩く練習してきたってわけ」
 とやる気満々である。
 私たちにとっては1年ぶりの桃花林だが、彼にとっては、去年の11月に桃花林に車椅子で来て以来、外食自体が1年ぶりといっても過言ではない。
 「おい、店は何時に予約したんだ?何時ごろ出てくのか?」
 そもそも脂っこいものが好きで大腸ガンにもなり、辛いものばっかり食べて脳出血もやったわけで、とにかく無類の中華好き。特に桃花林は大のお気に入りだけに、余計に気持ちが流行るらしい。

 席に着き、メニューが各人に配られるも、父は開こうともしない。
 「俺、北京ダック」
 あ、そう。じゃ、まずは北京ダックを…
 「本数でご注文いただけますよ。何本からでもどうぞ」とお店の人。
 じゃ、みんな何本食べたい?
 私と母と息子は、他のお料理も食べたいし「とりあえず1本」。
 夫は「俺、2本」。
 父はといえば…「俺、3本」。
 ええー、3本も食べるのおおお?
 「そう、3本」
 だって、他のお料理食べられなくなっちゃうよ。
 「いいの、いいの。北京ダックさえ食べられれば、あとは何でもいいもの、俺」
 呆れた80歳である。
 隣のテーブルの人たちが注文した北京ダックを、お店の人が「巻き巻き」している光景に、じっとしていられないといった様子。
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 さて、3品目が終わった頃、念願の北京ダックが運ばれる。
 …も、はて、一本足りないではないか。なんと私としたことが、まぬけなことに、自分の分を数え忘れて注文したようである。
 目の前に複数本北京ダックがあるのは父だけ。皆の目線が父の皿に注がれる。
 食卓が、一瞬、シーン…。しばらく間があったあとで、やっと父が
 「…俺の一本、喰っていいよ」
 さすがに、娘が食いっぱぐれてるのを見殺しにするわけにはいかないわな。すみませんね、では頂きます。
 「うん、んまーい!やっぱりここの北京ダックが一番旨いな」
 普段は少しでも硬いものがあると、うえっ、なんだこりゃ、硬くて噛めん、食えたもんじゃない、と、文句ばかり言ってるくせに、おかしいなあ、北京ダックの皮は硬いのに噛めるのね。ネギもすじばってるのに、飲み込めるんだ。へー。
 しかし、こうして1年ぶりに外食らしい外食をし、北京ダックを頬張っている父を見ていると、そういえばこの1年、ろくに父をかまってあげられなかった自分のことも、ふと反省してみたりして。
 来年も、こうして元気に、みんな揃って桃花林に北京ダックを食べにこられるだろうか。と思ったら急に不安になってきた。
 どうしよう。もし、これから1年の間に、万が一、父の身に何か起こったとしたら、そしたら私は一生、今日ここで父に北京ダックを3本食べさせてあげられなかったことを、一生後悔するかもしれない。
 なんてことを思ったのは、もしかしたら夫も同じだったのだろうか。
 「あのぅ、俺、1本でいいんで、よかったら、これ…」
 娘婿に差し出された一本の北京ダック。しかし、いくらなんでも普通はここで断るだろう。
 「あ、そう?悪いね」
 呆れた80歳である。
 結局、父は北京ダック3本と、その後のすべての料理、締めの杏仁豆腐まで食べつくし、終始ご満悦であった。
 
 しかし、去年の11月は車椅子で来たというのに、今年は歩行器を使っての自力歩行。ゆっくりではあるけれど、父も少しずつ進歩している。
 そういえば去年は、父と息子が一度にトイレに行きたいと言い出して、私は車椅子を押しながら息子を連れて3人で身障者用のトイレに一緒に入り、それぞれが用を済ませるという、なんだかある意味、子供2人の世話をしているような気持ちになったものだが、これも今年はまったく違う。歩行器の父と、なんと息子が一緒に男子トイレに同行し、蛇口をひねってやったり、ペーパータオルを取ってやったりと何かと世話を焼いていたのだとか。
 80歳は80歳なりに、そして幼児も幼児なりに、格段に進歩しているのだなあ。

 今年の「桃花林」参りも無事終わり、これで安心して年が越せるというもの。
 来年も、こうしてみんな揃って食べに来られますように。でも、北京ダックの数だけは間違えないようにしなくっちゃ。
 



 
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ritz

Author:ritz
イタリア家庭料理研究家
本業は広告代理店コピーライター
1999年以来、毎年有給休暇を使い果たす作戦でイタリアへ料理修行。年に1〜2回のペースで子連れでイタリアの農家やマンマの家々を転々としています。
HP→http://www.ristorante-ritz.com
Facebook"マンマの台所Ristorante Ritz"→https://www.facebook.com/ristoranteritz/

著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
U.M.A.O.オリーブオイル鑑定士
イタリア料理、子育てから、日本の旅、秘湯まで。

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