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イタ馬鹿日誌

昼は会社員、夜は母、週末は自宅で料理教室。ristorante-ritz.comのイタリア馬鹿な日々。

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SL「ばんえつ物語号」

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 早めの夏休みと称して3週間もイタリアに行ったくせに、遅めの夏休みもちゃっかり取っていた我が家である。
 8月22日~24日。行き先は福島県磐梯地方。
 ほんの数週間前に思い立って計画したこの旅行。温泉は我が家の必須科目として、それ以外にいつもとちょっと違う特別企画つき、だった。

 子供の頃、夏休みも終わりに近づくころを見計らって、毎年欠かさず家族旅行にでかけていた。普段は夕飯さえ家で食べることのない父が、この時だけは別人と化して綿密に旅の計画を練る。列車をどこでどう乗り継ぎ、どこを見て回ってどの宿に泊まるかを書き込んだ手作りの予定表を、家族全員に配布するほどの懲りよう。
 毎年趣向を変えて、日本全国あちこちへ。東北本線の寝台で、青森まで行ったこともある。
客車に備え付けのスリッパをつっかけて、夜明けの八戸駅のホームに、走って小唄寿司を買いに行ったときの高揚感は今でも忘れられない。
 この幼少期の経験が、もしかしたら私の旅好きの原点かもしれない。イタリアをくまなく周ろうとする執念も、また、もはや認めざるを得ないほんの少しの「鉄ちゃん」の気も、このときに形成されたことは否めない。

 しかし、親が当然のごとくクルマを持っている最近の子は、実はちょっとかわいそうだ。
 何かと便利だし、融通も利くしで、つい電車よりクルマを選んでしまうのは、考えてみたら親の都合である。
 私が、いつか自分の子供のためにと30年以上保存しておいたダンボール2箱分の当時のプラレールに、うちの息子が普通以上の執着を見せないのも、もしかしたら自らの電車体験が追いついていないからではないだろうか。
 別に息子を鉄ちゃんにしたいわけではないが、多少不便な思いをしても、自分で荷物を持ち、車を乗り継ぎ、車窓から景色を眺めながら家族と向かい合って移動する。そんな貴重な時間が、これだけ旅行していながら家族の中に全く存在しないのも寂しい気がしてきた。
 そこで今回は、マイカーはやめて、トレイン&レンタカーの旅。磐梯地方を選んだのは、秘湯がたくさんあるのも理由の一つ。新幹線マックスに乗れるのもうれしい。しかし、一番大きな目的は、磐梯高原の温泉を回った後の最終日に、会津若松から「SLに乗る」ことであった。

 息子がSLに乗ってみたいと言い出したのは、いや、言い出すよう仕向けたのには、ちょっとした伏線がある。7月末に長瀞に行った際に、長瀞駅で秩父鉄道のSLを見せたのだ。
 それには、私の18年来の上司で、鉄ちゃん人生50年のE男さんの助言(?)があった。
 その後「見るだけでは物足りない。乗ってみたい」と期待通りの息子の発言。
 ううむ、いいぞいいぞ。母は一度乗ってみたかったのだ。蒸気機関車という奴に。

 そして実現した、SLで行く、もといSLで帰ってくる福島の旅。
 初日から、天気には恵まれなかったものの、温泉以外にも、桃狩りに、美術館に、喜多方や会津若松観光にと、ずいぶん充実した旅だったが、この際、すべての話は後回しにするとして、話は一気に最終日の会津若松駅に飛ぶとしよう。

 出発までまだ一時間もあったけれど、早めにレンタカーを返却し会津若松駅構内に入ると、たくさんの人で賑わっている。その中で、これから新潟まで4時間のSLの旅を共にするであろう人たちは、なんとな見た目でわかる。親子連れあり、中学生のグループあり、カメラを首から下げ、売店のC57グッズを物色していれば、もう間違いないだろう。
 春から秋の間、週末だけ新潟~会津若松間の磐越西線を、土日のみ一往ずつ走っているSL。その名も「ばんえつ物語号」。阿賀野川沿いに日本海まで抜ける山の中を、新潟駅まで時速50キロでゆっくり走る。
 ちんたら、ちんたらの4時間の旅。息子は果たして鉄ちゃんになるのか、それとも、もう汽車なんてこりごりというのだろうか。

 駅の売店で、福島土産の定番「ままどおる」と、おやつと飲み物を買い込むと、早々に改札を済ませる。真っ先に発車ホームへ下りるも、C57「ばんえつ物語号」は、さらにもひとつ先のホームで最終点検の真っ最中。息子の手をとり再び階段を駈けのぼり、隣のホームへ移動。そして、まずはここで一発、写真タイムである。
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 ポッ、ポッ…と小さなため息のような吐息を吐き出す黒い鉄の固まりは、どこか気品に満ちている。あ、動き出した。あそこの折り返し地点まで行って、発車ホームに折り返してくるわけね。いよいよ出発時刻が迫る。
 で、再び息子と階段を駆け上がり、発車ホームへ移動。
 「ね、ママ、もう、もう発車するのっ?!」
 息子も気分が高まってきた様子。
 発車前に、やっぱり正面からお顔を拝まなくちゃ始まらないでしょう。ということで、今度は一番前に向かって一目散に走る。群がる鉄ちゃんを掻き分けて、出発前の大事な記念撮影。しかし、鉄ちゃんおじさま達の勢いに、息子もやや不安顔?
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 「あと○分で発車します。ご乗車の方はお席にお戻りください」といったアナウンスが流れる。
 C57が引っ張る客車は全部で5両。私たちが乗る車両は、機関車からはちょっと遠い。席につくと、ほどなく発車時刻。
 発車ベルが鳴りドアが閉まる。プオーーッ。汽笛の音を轟かすと、ゆっくりと動き出す。ああ、なんというか、銀河鉄道にでも乗ったような(乗ったことないけど)、このままどこか知らない国に連れて行ってくれるかのような、不思議な感覚に包まれる。
 感慨に浸っている間もなく、車内をわさわさと歩いては戻ってくる少年、青年がちらほら。な、なんだ?見ると、手にはサボやらチョロQやらキーホルダーが。はっ、車内限定販売の「ばんえつ物語号」グッズを早速買っているわけね。大変!遅れをとるわけにはいかぬ。早速息子の手を引き、隣の展望列車をおそろしいスピードで素通りし、2両先の売店へ。息子を片手で抱き上げて、我らも負けじと群がる。
 うわっ。ただのチョロQと侮るなかれ、C57を詳細に模したそれは誠にかわいい。これは必須項目でしょう、と、人ごみをかきわけ手にとって、握り締める。
 「あっ。トランプいいな~、欲しいな~、電車のトランプ」
 息子が発見したトランプは、表はSLの写真、しかし裏は数字に応じJRの全国の特急列車のイラストが。うん、これもいいね。勉強になるから買いなさい。
 「ねえねえママ~。これは何?かんばん?」
 見ると、「新潟⇔会津若松」と書かれた行き先標示板(サボ)のミニチュア。こんなの、ただのプラスチックのおもちゃじゃん、と思いつつ、ううむしかし、これもこの車内でしか買えないわけだし、今の時代、発光ダイオードの行き先標示しか見たことのない息子に、こういうレトロなサボを知っておいて欲しい気もする。
 「ボク、やっぱ、トランプやめて、こっちにしようかな」
 律儀に品を絞ろうとする息子。しかし、
 「いいじゃない!全部買おうよ!ね、買おう!」
 と率先して買いまくる私は、もう止まらない。
 で、いろいろ買って、締めて5000円なり。…バカです。

 席に戻ると、乗車手帳をスタッフのお姉さんが一人ひとりに配りに来る。乗車の証明書のようなものだ。ばんえつ物語号のオリジナルハガキも挿入されている。
 たたみかけるように今度は若い副車掌さんが、乗車した人にだけ押してくれるという、プレミアム(?)スタンプを、これまた一人ひとりに押してまわる。息子は大喜びだ。
 機関車は、どんどん緑の山の中へ。客車に弱い冷房は入っているものの、あちこちで窓を開け放ち車窓に身を乗り出す姿が、特に青年及び壮年男子のそれが目立つ。
 「えー、これよりトンネルが多くなります。通過の際には窓閉めにご協力ください」とアナウンスが。いわずもがな、そんな彼らの、トンネルの度に窓を開け閉めするその手際のよさといったら感服しきりだ。
 喜多方駅を過ぎると、展望車では、本日のイベント「ペーパークラフト講習」が始まるらしい。息子に退屈してもらっちゃ困るから、なんとしても参加せねばと、下調べをしていたときから決意していたので、真っ先に出向く。SL車両までは遠いけど、幸い展望車はすぐお隣だ。
 毎回、子供たちに大人気のイベントと見えて、整理券を配ると言っている。スタッフのお姉さんの前に這いつくばっていた私と息子は、整理番号1番をゲット。長蛇の列の羨望のまなざしを背中に浴びながら、作業開始。「ボクにはちょっと難しいかな~」というお姉さんを無視して、息子は、切るのが一番難しい自動車を切り始める。
 ペーパークラフト自体は、なんてことない、あらかじめ引かれた線を切って、ただ組み立てるだけなのだが、立ったまま、機関車の揺れに身を任せながらのハサミ使いは結構大変。何とか集中して自力で見事に仕上げた後は、自慢顔だ。

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 そうこうするうち、野沢駅に到着。給水時間でもないのに10分停車するというので、とりあえずカメラ片手に外へ出てみる。…と、みな、一斉に先頭のSLに向かって走り出すので、ここでも、なんだか負けちゃいけない気持ちになって、とりあえず私たちも走る、走る、走る。
 先頭に到着すると、運転席付近になにやら人だかりが。なんと、運転席に子供が次々と乗せてもらっているではないか。よーし、うちも!と列に並ぶ。
 どこのうちも、どうやら親の方が相当盛り上がっているようで
 「ああん、発車まで、あと5分しかないわっ。うちまで順番周ってくるかしらっ。んもう、あのお母さん、何回シャッター切ってるのよおっ」
 と、まさに私が言いたかったような文句が、後ろの列の方から聞こえてくる。
 どうにかぎりぎりで、うちの息子も運転席へ。かなり緊張の面持ち。自分の子供となると、しかし何回もシャッター切っちゃうんだよな、これが。
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 しかし、今頃ちょうどペーパークラフトの順番が回ってきた人は気の毒に。せっかく貴重な十分間の停車時間だというのに、背中丸めてペーパークラフトとは…。引き換え、私の裁量は、今のところ万全である。

 野沢駅を出ると、阿賀野川沿いにぐんぐん山の中へ。窓から入ってくる空気もの木々のひんやりした匂いに変わる。
 車両ごとのじゃんけんゲーム大会に参加したり、スタンプラリー用のスタンプを展望車両に押しに行ったり、買ったばかりの特急列車トランプでババ抜きしたり、なんてやっていると、あっという間に二時間近く経ってしまう。
 そして、いよいよ給水ポイントの津川駅に到着。ドアが開くなり、老若問わずカメラぶる下げた男子たちや親子連れが一斉に外へ。小雨まじりの小さな山の駅。霧と見まごうばかりの蒸気に包まれたホームの果てを目指して、ここでも走る、走る、走る。
 気がつけば、我が息子に手をぐいぐい引かれている私。おや?彼の中にも、どうやら小さな鉄ちゃんごころが芽生え始めたか!?
 給水の様子をひとしきりカメラに収めた人々は、そばで見守る車掌さんをひっ捕まえて、「すみませ~ん、シャッター押してくださ~い」と頼んでいる。
 おいおい、そりゃ、違うだろう。車掌さんと一緒に写る方がいいに決まってる。
 「すみません、息子と一緒に写っていただいていいですか?」
 大学生といっても通用するくらいの、しかしれっきとした「車掌」の名札を付けた若い男性。客車をしきりに回っていた「副車掌」さんとは正反対に、あんまり客ズレしてないらしい。一瞬、え?僕が?というような顔をするも、息子のそばにしゃがむと、自分の帽子をとって、息子の頭にそっとかぶせてくれた。
 「う、うわ~。あ、ありがとうございますっ」
 すっかり母の方が感動、かつ感心してしまった。いい子だわ~。車掌さん。
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 津川駅を出ると、新潟まであと1時間半。窓を開け放ち、夕闇に包まれ始めた阿賀野川の景色を楽しむ。河原を渡るたびに手をふってくれる人がいる。三脚を立ててシャッターを切る人も見える。
 ススのついた窓枠を見るにつけ、目では見えなくてもずいぶんススが車内に入って来てるんだろうなあ。と思うけれども、誰もがこうして風を顔に受けていることが気持ちよくてやめれれない。きっと、鼻くそ、真っ黒になるんだろうな…。
 レトロな造りの客車内の白熱灯も燈り始める。夕暮れを走る蒸気機関車もまた、味わい深い。
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 「これから終点新潟駅まで、トンネルはありません」
 と車内アナウンス。とうとう山越えを終え、新潟が、海が、近づいてきた知らせでもある。あちこちの客席で窓を全開する音が聞こえる。
 窓辺に肘をつき、ぼーっとたたずむ大人たち。ばいばーい、ばいばーい、誰からともなく、車内じゅうの子供たちが、外に向かって叫びだす。ばんえつ物語号と過ごす残りわずかなひと時を、心行くまで味わおうという思いは、老若問わず、みんな一緒なのだろう。
 副車掌さんが、客車に入ってくるなり、マイクなしの大きな声で別れのあいさつ。その後、席を一つ一つ回りながら「また来てくださいね」「ボク、楽しかった?」と声をかけて周る。
 機関士も、車掌さんたちも、若いスタッフで力を合わせてSLを走らせる、だけでなく、すべての乗客を心から楽しませる努力を惜しまない。そんな様子をいろいろなシーンで見ることができたのもまた、ばんえつ物語号の思い出を格別なものにしてくれた。
 新潟駅に降り立ったのはすっかり闇に包まれた午後7時。
 4時間もの山越え。しかし終わってみれば、疲労どころか、まだまだ乗り足りないくらい。身体的にも、新幹線で過ごす1時間より、SLに引かれて過ごす4時間の方が、すこぶる快適であることも痛感する。
 「えええ、もう着いちゃったの?もうSLおしまいなの?もっと…乗りたかった…」
 息子は至極残念そうにしている。母も思いは同じだ。
 その後、一路東京へと向かう新幹線が、見事なまでに味気なく思えたのは言うまでもない。

 さて、こんなわけで、息子はどうやら鉄道好きになってくれそうだ。 
 次はどんなSLに乗ろっか。水上?秩父鉄道?それとも大井川?
 息子と二人でイタリア修行の次は、息子と二人でSL旅行も悪くない。いつまで付き合ってくれるのかな。息子が成人して見放されたら、そのうち一人でSLの旅とかしちゃうんだろうか、私…。
 



 


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コメント

息子の「鉄」への道を後押しするとは立派な母親です.もんど君も立派な鉄ちゃんになることでしょう.次は手始めに東急線全線制覇ですか.
ブログに書きましたが,作曲家のドボルザークは大変な鉄ちゃんだったそうで,意外なところに鉄はいるものです.

橋都先生
お褒めのお言葉、有難く存じます。
鉄ちゃんと芸術家の相関関係、興味深いですね。
息子の「鉄」度が、彼の完成を磨いてくれることを期待して
さらに気合が入ってしまいそう…。
まずは東急線制覇、がんばります。

こんにちは! ボローニャのNaocciです!
実はRitzさんの本に出てくる「トルテッリーニの宿」を友人に紹介したいのですが・・・企業秘密でしょうか??
こちらボローニャ、秋を通り越して冬みたいにさむーーーいです(><) 暖かいTortellini in brodoが食べたーい!

naocciさま
コメントのチェックを怠っていて、今気づきました!
お返事遅れて本当~にすみません。
トルテッリーニの宿、ぜひお友達にご紹介くださいませ。
繁盛してくれるに越したことないです。
東京は、まだまだ夏の名残を感じる汗ばむ陽気。
それでも空がだんだん高くなり、秋の匂いを確実に感じます。
イタリアの秋の味覚、私も堪能したい…。

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ritz

Author:ritz
イタリア家庭料理研究家
本業は広告代理店コピーライター
1999年以来、毎年有給休暇を使い果たす作戦でイタリアへ料理修行。年に1〜2回のペースで子連れでイタリアの農家やマンマの家々を転々としています。
HP→http://www.ristorante-ritz.com
Facebook"マンマの台所Ristorante Ritz"→https://www.facebook.com/ristoranteritz/

著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
U.M.A.O.オリーブオイル鑑定士
イタリア料理、子育てから、日本の旅、秘湯まで。

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