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プーリア 小さな町めぐり

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 私が田舎のアグリトゥーリズモでの泊まり込み料理修業にこだわるには、実はもう一つ理由がある。それは、自分の道楽にいつも家族をつき合わせているという負い目を、少しでも減らすことができるから。
 私が厨房に入っている間も、息子は飽きることなく自然の中で動物や虫と戯れる。夫は、運転の心配もなく好きなだけ飲んだくれ、しかもあとはそのまま部屋で寝るだけというのが何にも代えがたい幸せだという。
 さらに、料理が始まる夕方まで、昼間はめいっぱい時間を使えるのも魅力。車で周辺に繰り出して、古い町を探索したり、お土産探しをしたり、あるいは海に行ったり。一家揃って旅らしい旅を楽しむことも忘れない。

 そんなわけで、ここプーリアでも、毎日、昼間は精力的に海や町めぐりを繰り返した。
 紀元前にさかのぼる歴史を持つプーリアの町は、様々な国の侵略を受けながら、イタリアにしてイタリアではない独特の文化を形成してきた。一つ一つの教会、家並み、建物を見ながら、ただただ町を練り歩く。それだけで立派な観光になってしまうのだ。

@Cisternino(チステルニーノ)
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 町の坂道をひたすら上って上って、頂にやっと見つけた城壁。この中がチェントロ・ストーリコ(旧市街)だ。小さな門をくぐると、そこは白一色の迷路。小さな家がひしめく細い路地をくねくね歩いていくと、自分が小人になったみたいな気がしてくる。住宅の二階部分へ上がる外階段が、町並みにいっそう変化をもたらして、どこをどう歩いても飽きない、不思議な迷宮。
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 一時はさびれかけた時代もあったなんて信じがたいほど、若い世代が内装をリフォームしてギャラリーやリストランテを開いたり。活気に溢れている。


@Martina Franca(マルティーナ・フランカ)
martina(2)
 プーリアくんだりまできても、ガチャポン&乗り物ですか…。


@Locorotndo(ロコロトンド)
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 ワインの町としても知られるロコロトンド。同じく白い町だけど、町の生活がちゃんと見える。軒先で涼むおばあさん、工事のおじさん、ペンキ屋さん、すれ違う人がみな、Ciao!と声をかけてくれる。
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  「あ!フィアットヤマハだ!これ、買って~っ!」小さな電気屋さんのショーウインドウで息子が見つけたバイクの模型。フィアットヤマハって何?よく見ると、ヴァレンティノ・ロッシ・モデル。確かに、かっこいいじゃん。で、即買ってやる甘い親。ちなみにこの電気屋のおじさん、何と偶然にも宿のジュゼッペの30年来の知り合いだった。あとでジュゼッペに聞いた話だが「ロコロトンド・スキー協会の会長」だとか。それって、「石垣島スキー協会」みたいなもの…?
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@Alberobello(アルベロベッロ)
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 世界遺産アルベロベッロだけあって、ド・観光地。郷に入っては郷に従えということで、ここではおとなしく観光客らしい立ち居振る舞い。トルゥッリのミニチュアを売る土産店で、職人さんと記念撮影。


@Castellana Grotte(カステッラーナ グロッテ)
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 1キロのショートコース見学の最終回にぎりぎり間に合う。深い洞穴を下っていくと、地下には10キロの鍾乳洞が。。結構おどろおどろしくて面白い。残念ながら鍾乳洞の方は、撮影不可。


@Ostuni(オストゥーニ)
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 宿から数キロの比較的大きな町。チェントロ・ストーリコの坂の両側は土産物店で埋めつくされ、いささか幻滅するも、登り詰めた展望台から海に向かって見下ろす景観は圧巻。それはまるでオリーブ畑の「樹海」。思わずぞぞっと鳥肌が立つ。こんなオリーブ畑の光景はおそらくプーリアを置いて他にない。


@Monopoli(モノーポリ)
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 J内先生にお薦めいただいたリストランテへ。
 チェントロ・ストーリコにたどり着くまでに新市街で早くも道に迷い、いったい何人の人に助けてもらったことか。最後は、本屋のおじさん、店員のお姉さん、その店の客のおじさんに、救われる。店の前に車まで止めさせてもらい、地図までもらって、やっとのことでリストランテに辿りつく。
 店に着くなり、ドアが自動扉のように開く。「お待ちしてましたよ」と店主のおじさん。お薦めの、海の幸のズッパには、キンキが2尾、おおぶりのイカも2尾、その他の小ダコ、アサリ、ムー貝は「∞」個入り。おいしい、おいしいけど、食べきれない…。
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 町中のこんな小さな浜辺でなくとも、もっときれいな海岸線がいくらでもあるのに、泳ぎたいと騒ぎ出す息子。しかし水着は新市街に停めてきた車の中。今日は泣く泣く石拾いでがまんがまん。


@Gorottaglie(グロッタリエ)
grottaglie
 陶器の町、グロッタリエ。近いようで、行ってみたら遠かった…。
イタリアでも、おそらく日本でも同じかもしれないが、陶器の町って、どこか暗いというか、哀愁ただよう空をしているのはなぜだろう。風情ある陶芸の里というより、小さな工業地帯のよう。


@Gallipoli(ガッリーポリ)
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 早起きして遠出。1時間半かけて、プーリアの「かかと」の突端にあたるガッリーポリへ。岬にある新市街から、さらに2~3百メートルの橋を渡った小さな島がまるごど、チェントロ・ストーリコだ。紀元前8世紀の古代ギリシャの殖民都市まで歴史をさかのぼるガッリーポリ。ビザンチン、イスラム、ノルマン、スペイン、ブルボン朝…、さまざまな文化を受容しながら今の町が築かれたのだろう。
 ものものしい壁に守られた、海に浮かぶ要塞とでもいうべきか。しかし一歩中に入れば、時間が止まったのどかな生活、子供たちのはしゃぎ声、パスタの茹でる匂い…、まるで東京の下町を歩いているような庶民のいきいきした生活が息吹いている。
 この町では古くから、漁業、皮細工といった職人ごとに教会を持っているとか。それぞれのカラフルな教会は、組合の詰め所のよう役割もある。
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 唯一の浜辺でつかの間の海水浴。本当は、プーリアらしい果てしなく続く海岸線に連れて行ってやりたかったが、ここで妥協。それでも息子にとっては待ちに待った海水浴(というか“貝掘り”だけど)、大いにはしゃいでいる。小さいけれど、十分美しく、地元のおばさんや子供たちしかいない。まあ、ガッリーポリまで来て、こんなところでわざわざ泳ぐ観光客、いないよな…。
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 若いオーナーが昨年始めたばかりというリストランテでランチ。魚介の鮮度はもちろん、手の込んだ料理、繊細な味わいには驚愕した。ここでも、若い世代が町をどんどん元気にしている。


@Lecce(レッチェ)
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 バロックのフィレンツエと言われるプーリア随一の華やかな町。有名なアートスクールも多い。城壁の門で、いきなりそのデコラティブな細工に面食らう。
 町の端から端まで歩いても1キロに満たない。それでも、今回訪れた町の中で一番の「大都市」。メインストリートの突き進んでいくと、両側にはまるで十数メートル置きに、古い教会が出没し、その石細工に目を奪われる。
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 そしてとどめはサンタクローチェ教会。そのファザードを見上げるとクラクラしてくる。やわらかい石灰石は彫刻にうってつけ。貴族たちがこぞってデコレーションに走った当時の名残が、今でも観光客の目を楽しませてくれる。
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 イタリアは南に下がるほど、営業開始時間も、お昼休みが始まる時間も、そして午後の開店時間も、すべてが遅くなる。レッチェも、店が開くのは大体午後5時。おそっ。町でいちばんオシャレなパスティッチェリアでジェラート頼んで時間つぶし…。


@Polignano a mare(ポリニャーノ・ア・マーレ)
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 サレント地方から、今度はバーリの方にぐぐっと北上し、アドリア海の町へ。岸壁へばりつくように築かれた町は、白い小島のよう。観光客もまばらなひっそりとした町中だけど、地元出身のデザイナージュエリーの店があったりして、なかなかオシャレな町だ。

  *****************
 こうして、プーリアの町も毎日コツコツと制覇し、あっという間に最後の晩がやってくる。
 急いで宿に戻ると、今日もマリアちゃんがうちの息子をお待ちかね。
 「Mはいつ帰ってくるのかしら…って。そればっかりだったのよ。Mは疲れてないかしら…」
 とお母さんのアントネッラが申し訳なさそうに言う。
 7歳と5歳のこの二人、言葉も通じないのにすっかり仲良しになってしまった。Mが町から帰ってくるのも、夕食をなかなか食べ終わらないのも、マリアちゃんはいつもじーっと待っている。こんな愚息のことを想ってくれるなんて、なんという有難い話だろうか。
 さて二人のことは夫に任せるとして、私はアントネッラと厨房へ。
 今日のプリモ・ピアットはズッキーニのリゾット。しかし、初日に食べたオレキエッテの作り方に興味があった私のために、特別にマリアおばあちゃんがパスタを打ってくれることになっていた。
 「そう?そんなにおいしかった?あたしのリゾット。ベーネ、ベーネ。そりゃよかった」
 あのムチムチとした食感は今まで食べたオレキエッテとちょっと違う。おまけに色もやや褐色を帯びていて…
 「ブラーヴァ!いいところに気づいたね!ちょっとしたヒミツがあるのよ」
 そういってマリアおばあちゃんが出してきたのは、セモリナ粉、小麦粉、そしてさらに、全粒粉。少しベージュががった色をしているのも、なんともいえない歯応えも、この3種の粉ブレンドによるものだった。
orecchiette(1)
 マリアおばあちゃんは、お湯を加えて手早く練り合わせて生地をつくると、千歳飴状にくるくると伸ばす。つづいてテーブルナイフで一センチくらいの切込みをいれ、そのま手前にナイフの刃をちょいと引っ張ってから左の人差し指で残りをぱっと切り離すと、あれれ、オレキエッテの形ができている。この一連の動作、一個につき、1秒とかからない。え、え、ちょ、ちょっと待って。もいっかい。
 「どうだい?うちのマンマのオレキエッテは。簡単だろ?」
 ジュゼッペがちょっかいを出しに来た。
 最後の晩になる私に、教え切れなかった伝統料理をいろいろ説明してくれる。この料理は聞いたことあるか?あの料理の作り方は知ってるか?と次から次へ話が移る。
 そうこうするうち、もう一人の“男子”であるおじいちゃんも、いつものようにつまみ食いしにやってきて、むしゃむしゃとほっぺたを落としそうにしている。
 ここんちでは、男子は厨房では手ではなく、もっぱら「口」を動かすのが仕事のようだ。
 子供たちが息をゼーゼー切らしながら汗だくで厨房に入ってきた。庭でサッカーをしてきたとか。息がおさらまないまま、今度はオレキエッテ作りに乱入だ。
 「いいんだよ、いいんだよ。好きにさせといておやり」
 おばあちゃんの言葉に甘えて、オレキエッテはいつの間にか粘土大会に早変わり。
orecchiette(2)
 二人を見ていたはずのうちの夫は、またしてもいつの間にか姿を消している。…と思ったら
「ねえ、これってカブトムシかなあ。聞いてくんない?」
 と手に虫をもって入ってきた。
kabuto
 昼寝でもしてるのかと思ったら、もしかして、虫探ししてたの…?。ちなみに、これはイタリアのカブトムシに間違いないらしい。

 家族が、お客が、こうして自然と集まってきてしまう厨房。そこから生み出される料理が、美味しくないわけがないことを痛感する。
 さて、私たちにとっての最後の晩餐メニューは、自家製タラッリに自家製野菜のペーストを乗せたクロスティーニ、ズッキーニのリゾット、若鶏のローストに、フルーツの盛り合わせ、そして焼き菓子の盛り合わせ。
 ナルドゥッチファミリーの愛情がぎゅっと凝縮された一品一品を平らげたあとは、みんなで折り紙大会が始まる。
origami


 「今日、マリアにこんなこと言われたんだ」とジュセッペ。
 「うちには、イギリス人やドイツ人やいろんな国の人がこうして子供をつれてバカンスにやってきて、すぐにお友達になるけれど、でも、私はどうしてすぐにお別れしなくちゃいけないの?って」
 まあ!なんとけなげなことを…。
 「だから僕、こう答えたんだ。Mは違うよ。Mたちは必ずまたここに帰ってくるよ。4年後か5年後かわからないけど、マリアと遊びに必ずまた帰ってくるよって。ね?そうだろ?」
 もちろん!絶対また来るよ。っていうか、来年くるかもよ。

 翌日は夕方発の飛行機。チェックアウトしてから時間があるので、カラブリア州の世界遺産、マテーラに足を伸ばそうと計画していたが、ううむ、となると9時には宿を出ないといけない。ううむ、最後の最後までここでゆっくりしていたい気分…。
 そんな私たちの想いが顔に出ていたのだろうか、アントネッラが言う。
 「ねえ、明日本当に早くにここを発つの?Mは疲れがたまってたりするんじゃない?うちは何時まででもいてもいいのよ。明日はあの部屋に予約は入ってないんだし、午後までずっといてもいいのよ?」
 彼らのやさしい気遣いに、私も夫も、あっさりとマテーラ行きをやめることに。

 世界遺産よりも、ナルドゥッチ家を選んだ私たちであった。
last

Azienda Agrituristica NARDUCCI
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ritz

広告代理店コピーライター
イタリア家庭料理研究家
HP→http://www.ristorante-ritz.com
著書に「トルテリーニが食べたくて」
日本ソムリエ協会認定ワインアドバイザー
イタリア料理、子育てから、オペラ、日本の旅、秘湯まで。

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